絶叫マシーンと呼ばれるジェット・コースター等が典型ですが、お金を払ってまで怖い思いはしたくないと思います。バンジー・ジャンプもその一つです。南太平洋バヌアツ発祥のバンジー・ジャンプは、大人として認められるための典型的な通過儀礼です。同様の通過儀礼は、世界中に存在します。日本の元服といった儀式、バンジー・ジャンプのような恐怖心を克服するタイプ、そして登山等肉体的強さを試すタイプ等があります。通過儀礼は、フランスの文化人類学者アルノルト・ファン・ヘネップによって定義されました。
通過儀礼は、典型的に、隔離・過渡期・再統合という三つの局面を持つとされます。例えて言えば、皆に守られた子供の世界から隔離され、精神や肉体の強さを試す試練が与えられ、それらを克服して一人前の大人として社会に参加する、といった流れです。隔離は、他の小さな子供たちから離され、特定の施設で暮らす、あるいは山中や密林のなかで一定期間過ごすといった形を取ります。身を清めるといった意味もあるのでしょう。そのうえで、試練や儀式に臨むわけです。
北朝鮮の金王朝の独裁者になるための通過儀礼は、あまりにも物騒なものです。まずは指導者候補とされ、精神的な意味で他から隔離されます。与えられる試練は、韓国に対する軍事行動を立案・実行することです。そのうえで、後継者としての認知が行われるわけです。金正日の場合、87年の北朝鮮工作員による大韓航空機爆破事件、韓国高官が爆殺された88年のラングーン事件等が相当するのでしょう。金正恩の場合には、2010年の延坪島砲撃事件等もありますが、何といっても一連の核兵器やミサイル開発がそれに当たると思われます。北朝鮮独裁者の通過儀礼で試されるのは、軍と人民の掌握です。軍は、最高司令官たる独裁者に隷属しますが、独裁者の喉元のナイフにもなり得ます。自分は韓国と戦う、よって軍は必要不可欠であり、軍と軍幹部を粗末に扱うことはない、というメッセージを、行動をもって示す必要があるわけです。人民に対しては、戦争状態であるからして、苦難を耐え忍べ、というのが王朝の基本姿勢です。ですから、韓国を利用することはあっても、平和的に統合することなどあり得ません。あり得るとすれば、南北が協同して、日本やアメリカと戦う場合だけです。
北朝鮮に人民蜂起はありません。密告制度と情報統制が徹底されているからです。クーデターの噂はありますが、成功したことはありません。平壌に住む党や軍の幹部は、いわば王朝の貴族であり、その安楽な生活を維持しようとします。王朝と一蓮托生の存在である貴族がクーデターを阻止する仕組みと言えます。ただ、王朝を維持しつつ独裁者を替えることはできます。そこで個人崇拝を徹底することで、そのリスクを回避しようとしているわけです。北朝鮮の支配体制は、ある意味、よく機能していると言わざるを得ません。(写真出典:sankeibiz.jp)