2020年11月13日金曜日

居反り

2020年11月場所5日目、十両の宇良が大技「居反り(いぞり)」で旭秀鵬を破りました。十両以上で居反りという決まり手が出たのは、実に27年ぶりです。27年前には、智の花が居反りを決めていますが、34年ぶりと言われました。いずれにしても極めて珍しい決まり手です。幸いにも、私は、正面のマス席で、宇良の居反りを見ることができました。コロナ対策で、声を出していなけない国技館ではありますが、思わず「居反りだ!」と叫んでしまいました。滅多には見れない大技に、館内には大歓声が沸き上がりました。

宇良は、旭秀鵬の左手を掴んだまま、左脇をくぐり抜け、後ろに反っています。相撲協会の決まり手82手のなかに、反り技は6手あります。そのなかで居反りは「腰を低く落とし、相手がのしかかるようにしてきたとき、両手で相手の膝のあたりを抱えるか、押し上げて後ろに反って相手を倒す」とあります。関西学院1年生だった宇良は、大型選手を相手に、これを見事に決め、「居反りの宇良」と呼ばれるようになりました。その時の決まり手は「撞木反り」ともされますが、相撲協会の決まり手に沿うならば、典型的な居反りだと思います。一方、今回の宇良の決まり手は、居反りと言うよりは「伝え反り」だと思われます。

いずれにせよ珍しい技なので、反り技は、すべて居反りと呼ばれる傾向があります。それはそれでまったく問題はないと思います。本能とタイミングから生まれる技ですから、状況は個々で、決まり手どおりとはいきません。そもそも相撲というよりはレスリングの技に近いものがあり、稽古場で覚え、稽古する技でもありません。ただ、宇良の場合、レスリングの経験があり、学生時代に決めた経験からして、明らかに狙っていたものと思われます。4年前にも、一度仕掛けて、失敗しています。仕掛けただけでも評判になっていましたが、今回、見事に決めたことで「居反りの宇良」は、相撲の歴史に名を残すことになりました。

宇良は、大阪府寝屋川市出身、木瀬部屋の十両力士です。4歳で相撲をはじめ、小学校3年からレスリングも始め、全国2位にもなっています。高校から相撲に専念しますが、体も小さく、レギュラーにはなれなかったといいます。関西学院に進むと、体重別では全国優勝、世界チャンピオンにもなります。また肉体改造に取り組み、無差別級でも全国4位に入るなどの活躍をして、木瀬部屋に入門。2015年3月初土俵、2017年3月入幕とスピード出世を果たします。しかし、小兵でアクロバティックな相撲を取る宇良は膝の怪我に苦しみ、序二段106枚目まで番付を落としました。

しかし、2019年11月場所から本格復帰、各段優勝も果たし、2020年11月場所、十両に復帰しました。まさに不屈の闘士です。力士の大型化が進んだ大相撲ですが、小兵力士が活躍してこその大相撲でもあります。あくまでも無差別級を貫く大相撲の象徴とも言えます。怪我に十分気をつけながら、土俵を沸かせ、観客に勇気と希望を与え続けてもらいたいものです。(写真出典:sankei.com)

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