2020年11月30日月曜日

梁盤秘抄 #10 Electric Ladyland

 アルバム名:Electric Ladyland (1968)  アーティスト名:ジミ・ヘンドリックス

私は、音楽が好きだという人に、「あんたの神様は誰だ?」と聞きます。本当に音楽が好きな人は、間髪入れずに答えてくれます。音楽好きは、結構、幅広いジャンルの音楽を聴いているものですが、神様が誰かによって、その人の好む音楽の傾向も分かります。私の場合、マイルス・デイビスとジミ・ヘンドリックスと答えます。もちろん、他に大好きなミュージシャンもいますし、好きなジャンルもありますが、煎じ詰めれば、やはりこの二人です。

ジミ・ヘンドリックスは、その早すぎる死までの短い活動期間で、エレキ・ギターの概念を根底から覆し、多くのギタリストに影響を与えました。今でも、ロック・ギタリストのナンバー・ワンであり続けています。ジミヘンと言えば、その超絶技巧やエフェクターの話が多いのですが、実は最も驚嘆すべきは、その音楽的センスだと思います。それを強烈に感じさせられるのが、ライブです。スタジオで作り込んだ音楽も驚異的ですが、ライブでは、感性を解き放ち、さらに変幻自在なソロを聞かせます。その典型とも言えるのが、ウッドストックで弾いた「Star Spangled Banner」でしょう。マイルス・デイビスも、あんな音感のいい奴は滅多にいるもんじゃない、とまで評しています。人をほめないマイルスにとっては、ほぼ最上級の誉め言葉です。

ジミヘンの生前にリリースされたアルバムは、5枚。うち2枚は、スマッシュ・ヒットとバンド・オブ・ジプシーズのライブ盤です。ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのスタジオ録音は、わずかに3枚ということになり、このElectric Ladylandが最後のアルバムです。名演奏だけでなく、名曲も多いジミヘンですが、私の一番好きな曲は、「Voodoo Child (Slight Return)」です。最もジミヘンを感じさせる曲だと思います。また、最高のカバー曲は、ボブ・デュランの「All Along the Watchtower」でしょう。本家本元まで、ジミヘン・ヴァージョンで演奏するというカバーを超えたカバーです。

ジミヘンのギターは、音量を大きくしたヒューバート・サムリンだ、と言う人もいます。まったく否定しません。なぜならハウリン・ウルフ・バンドのギタリストだったヒューバート・サムリンは、単にジミヘンに影響を与えたのではなく、60年代以降のロック・ギターとギター・ブルースのドアを開けた人だからです。ジミヘンの特色は、サムリン風のギター・フレーズではなく、オリジナリティあふれるその音楽世界ものです。例えば、ブルース・ギターの頂点を極めた名手スティービー・レイ・ヴォーンが、Voodoo Childを完璧にコピーしていますが、ジミヘンとは異なるテイストに仕上がっています。スティービーが味付けをしたのではなく、ジミヘンが極めてユニークな演奏者だったからです。

名演奏、名曲、エピソードに事欠かないジミヘンですが、気になることの一つは、その死の真相です。ジミヘンは、27歳で死んだミュージシャンを総称する27クラブの筆頭です。他の連中は、概ね麻薬のオーバーが原因で死んでいます。ジミヘンの場合、急性アルコール中毒が死因と言われます。ただ、死亡時の血中アルコール濃度は低かったという話もあり、死亡時一緒にいたフィギア・スケーターのモニカ・ダンネマンの証言も二転三転し、不審な点が多いとも言われます。ジミヘンは、マフィアとの関係も取りざたされていました。アルコールに弱かったジミヘンを、マフィアがアルコールで窒息させたという説も有力視されています。(写真出典:discogs.com)

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