1959年アメリカ 監督:バート・スターン
☆☆☆+
1958年のニューポート・ジャズ・フェスティバルを記録した伝説的映画の4Kデジタル・リマスター版です。59年のヴェネツィア映画祭で招待上映された時には、その斬新な映像で大喝采を浴びました。ステージだけではなく、ヨットのアメリカズ・カップの模様、ビーチの光景、リッチでスノッブな観客たち等のカットが効果的に挿入され、単なる音楽祭の記録映像を超えています。監督のバート・スターンは高名な写真家ですが、白人中産階級が安定と繁栄を謳歌したアメリカ最良の頃を、見事に切り取っています。ロードアイランド州ニューポートは、メイフラワー号上陸からほどなく開かれた由緒ある街です。ナラガンセット湾に浮かぶロード・アイランド南端に位置し、天然の良港として、あるいは軍港としても栄えました。黒船のペリー提督の生誕地でもあります。産業革命後は、富裕層の別荘が多く建てられました。ゴルフやテニスのUSオープン、ヨットのアメリカズ・カップ等の発祥地であり、最初の野球グランドもここに作られたと言います。アメリカを代表する保養地ニューポートは、ニューイングランドの富の象徴でもあります。
1954年から続くニューポート・ジャズ・フェスティバルは、世界で最も有名なジャズ・イベントです。有名ミュージシャンが多数演奏し、多くのライブ・アルバムも録音されてきました。主催のジョージ・ウェインは、多彩なプログラムを組み、常に時代を反映させてきました。本作でも、ニューオリンズ・ジャズからバップ、クール、モダン・ジャズまで、さらにR&Bやロックまでと幅広い演奏が楽しめます。サッチモことルイ・アームストロングがトリで登場し、マヘリア・ジャクソンのゴスペルで締めるあたりは、当時のアメリカの価値観を感じさせます。
この年、ジョージ・ウェインが盛り込んだ新しい時代の風は、チャック・ベリーだったのでしょう。既に多くのヒットを飛ばしていたロックン・ロールの神様チャック・ベリーは、この年の大ヒット曲「スゥイート・シックスティーン」を、彼の代名詞であるダック・ウォークを披露しながら、スウィング・バンドと共演します。客席の若い人たちが大興奮して踊る様が映し出されます。チコ・ハミルトンの「ブルー・サンズ」も時代を感じさせます。ウェスト・コースト派のクールで知的なアプローチには、50年代のモダニズムが色濃く反映されています。なかでもエリック・ドルフィーの端正なフルートが印象的です。
ロードアイランドは、入植当初から、宗教の自由が認められており、保守的なプリマスを逃げ出した反律法主義者がニューポートを開いたとされます。反律法主義は、救いは律法ではなく信仰そのものから与えられる、という考え方であり、異端とされます。しかし、それが多様な宗教を持つ人々を集め、世界の海に開かれた港ニューポートの活気を生み出したのでしょう。多様性あふれるジャズ・フェスティバルの開催地として、誠に相応しいとも思えます。(写真出典:eiga.com)