2020年10月7日水曜日

奇跡の番組

 NHKの「ブラタモリ」は大好きなTV番組です。各地の地質と歴史の関係を楽しく伝える、いわば地質学エンターテイメント。山がちな国に住んで地形・地質に興味のない人は少ないと思いますが、改まった話を聞くこともなく、マニアックな地質学が敬遠される傾向もあります。地質マニアのタモリが、肩肘張らずに知的な興味を満してくれる貴重な番組です。2017年、日本地質学会は、ブラタモリを「奇跡の番組」と高く評価し、NHKを表彰しました。

ブラタモリは、2008年に放送が開始されていますが、当初は断続的なレギュラー放送でした。タモリが、平日昼の「笑っていいとも」に出演している関係で、制作には制限があったわけです。当初は、古地図に基づき東京の歴史を散歩するという内容でした。また、タモリらしく、ほとんど台本のないぶっつけ本番スタイルが、とても良い効果を生みます。30年を超える長寿番組「笑っていいとも」が終了すると、2015年からは土曜ゴールデンタイムでのレギュラー化がスタート。各地へのロケが始まり、地質学エンターテイメントが生まれます。

ブラタモリが業界に与えた影響は、とても大きかったと思います。まずは、知的エンターテイメント系の番組が増えたことです。昔からあったのでしょうが、予算も質も向上し、有名タレントを使い、分かりやすさを向上させた番組が増えました。NHKのEテレは、それが基本方針かと思うほどです。まだ硬さは残りますが「100分de名著」などは、伊集院光がホストになってから、とても分かりやすく楽しい番組になりました。民放のゴールデンタイムで放送される番組も増えました。やはり奇跡の番組と呼びたい「プレバト‼」の才能査定ランキングでは、俳句という、これまた地味な分野が、見事なエンターテイメントに仕立てられています。夏井いつき先生という得難い才能を見つけた幸運もありましたが。

そして限りなく薄い台本、ライブ感を前面に出す演出も増えました。これは、タモリが長寿番組「タモリ倶楽部」で得意としてきた手法でもあります。NHKの大人気番組「鶴瓶の家族に乾杯」や「チコちゃんに叱られる」もリハーサル一切なしの収録という手法が当たりました。かつて大橋巨泉が、TVの本質はトーク番組にある、と言っていましたが、ぶっつけ本番スタイルは、それに通じるのかも知れません。

ビジネスとしての民放の機能は、消費者にCMを見せることです。極端に言えば、CMの間にコンテンツが放送され、視聴率を上げるということはCMを見る消費者を増やすということに他なりません。時代とともに移ろう視聴者の興味を捕捉し続ける民放の皆さんのご苦労も大変なものがあると思います。かつては歌番組、その後吉本系のバラエティ全盛の時代が続きました。近年になり、知的エンターテイメントの要素を取り入れてきた背景には、TV を見ているのは若者ではなく老人という大きな変化があると思います。そういう意味では、もっと知的エンターテイメント系の奇跡の番組が増えることを期待したいものです。(写真出典:matome.never.com)

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