2020年10月31日土曜日

アフガンの女司令官

若き日のビビ・アイシャ
ニューヨーク・タイムスの「アフガン二スタンの無敗の女性司令官の降伏が意味するもの」という記事に驚きました。無敗の司令官の降伏ではなく、アフガンに女性司令官がいることに驚きました。正確には軍人ではなく、アフガン北部の部族軍を率いる女性リーダーです。1979年のソビエトによるアフガン侵攻時、ソビエト特殊部隊を撃退して有名になり、その後もタリバンと戦い続け、無敗を誇ってきたと言います。もちろん、今や女性兵士が前線で戦う姿は珍しいものではなくなりました。ただ、戒律の厳しいムスリムの世界にあっては極めて異例と言わざるを得ません。

”司令官”ビビ・アイシャは、鳥のような優雅な動きで敵を殺すことから「カフター(鳩)」と呼ばれているそうです。部下の兵士は、皆男性で50~150名程度と言われます。アフガンでは超有名人で、アフガンにおける女性の地位を大きく変えた人物と言われているそうです。彼女は「戦士の心を持っていれば、男でも女でも関係ない」と話しています。かつて、彼女は、タリバンの指揮官と渡り合った際に「もし私がお前を拘束したら、ロバに乗せ、女に負けた男としてさらし者にする。もしお前が私を拘束したら、女を拘束した男として皆から批判されるだろう」と言ってのけたそうです。女性司令官ならではの話です。

ムスリムの世界では「女に殺された者は天国に行けない」と言われるそうです。19年に公開された実話に基づく映画「バハールの涙」に出てくる話です。バハールはイラクのクルド人自治区の弁護士。ISの襲撃で、夫を殺され、息子は連れ去られ、自身も性奴隷化されます。命からがら逃げだしたバハールは、息子を奪還するために、同じ境遇の女性だけを集め「太陽の女たち」なる部隊を組成し、ISと戦います。殺されたら天国に行けないことから、ISの戦闘員たちに恐れられる存在になっていきます。ビビ・アイシャも、同じ強みを持っていたものと想像できます。

この10月、タリバンは「彼女が“高く飛び続けた”日々は終わりを迎えた」と、ビビ・アイシャの降伏を宣言しています。タリバンに包囲されたビビ・アイシャは降伏を認めたようですが、彼女の息子は、あくまでも停戦であって、降伏ではないとコメントしているようです。既に70歳を超え、膝を痛めたビビ・アイシャは寝たきりの状態にあると言います。かつてのように先頭に立って戦えなくなったことが、初の敗戦につながったのでしょう。

ビビ・アイシャの一族には、流血の内部抗争の歴史があります。今回、ビビ・アイシャを降伏に追い込んだタリバンの司令官は、かつて彼女に追放された一族の者だといいます。その後、タリバンに合流し、司令官にまで昇進したようです。となると、今回の戦闘は、タリバンと部族との戦闘ではなく、部族の内部抗争と見ることもできるかも知れません。いずれにしても、アフガンで続く混乱の根深さを物語っています。(写真出典:hazara.net)

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