2020年10月3日土曜日

「メイキング・オブ・モータウン」

 2019年アメリカ・イギリス   監督:ベンジャミン・ターナー・ゲイブ・ターナー

☆☆☆☆

30年程前、家族でコネチカット州ノーウォークの海洋博物館に行った時のことです。白人だらけのカフェテリアの我々の隣の席で、小柄な黒人女性が家族と食事していました。カジュアルながら上品な装いでエレガントな風情でした。かみさんが「ダイアナ・ロスじゃない?」と言います。ダイアナ・ロスは、大スター中の大スター。子供連れとは言え、カフェテリアなんか来ないだろうと思いました。しかも、誰一人、彼女を見ていないのです。ところが、彼女が店を出る時には、全員が目で追っていました。間違いなくダイアナ・ロスでした。

ダイアナ・ロスは、モータウン・レーベルの大看板。60~70年代は、モータウンの時代でした。スモーキー・ロビンソン、スティービー・ワンダー、マービン・ゲイ、テンプテーションズ、ジャクソン5等々が所属し、独特のモータウン・サウンドで世界を席捲。例えば、60年代のビルボード・トップ10に97曲も入っています。しかし、1959年、ベリー・ゴーディがレーベルを立ち上げた時の資金は、家族から借りた800ドルだけでした。本作は、ベリー・ゴーディ本人が、その歴史的大成功の要因を振り返るドキュメンタリーです。

ゴーディは、フォードの工場で働いた時に見た工場生産方式を、レーベル経営に利用します。映画は、その”生産ライン”に則り進行します。よく整理された展開が、モータウン成功の要因を分かりやすく伝えます。スモーキー・ロビンソンはじめ優秀な作曲家たち、ベースのジェームス・ジェマーソンはじめジャズマンで構成されるバックバンド”ファンク・ブラザース”、ノーマン・ホイットフィールドをはじめとする敏腕プロデューサーたちが自由闊達で、かつ互いに競い合う風土がヒットを連発していきます。

特徴的な組織が、”アーティスト養成部門”と”品質管理会議”です。アーティスト養成は、アーティストに上品な立ち居振る舞いを教育します。白人にバカにされないよう自信とプライドを持たせることが狙いでした。”品質管理会議”は、幹部が全員参加し、リリースする曲を決めるという会議。ゴーディのセンスだけに頼らない仕組みです。マービン・ゲイ不朽の名作「ホワッツ・ゴーイン・オン」も、当初、政治的であることを嫌ったゴーディが反対したと言います。

モータウン最大の成功要因は、ゴーディが掲げた"The Sound of Young America"というスローガンでしょう。ゴーディは、泥臭い黒人音楽を、人種の壁を超えた音楽にしようとし、成功しました。モータウン・サウンドは、R&Bチャートではなく、ポップ・チャートでビートルズとトップを競いました。分離政策下の南部では、若者たちが、人種を越えて、一緒に踊りました。ダイアナ・ロス&シュープリームスは、TVのエド・サリバン・ショーに登場しました。幼いオプラ・ウィンフリーは、それを見て「白人の番組に黒人が出ている!」と叫んだといいます。オプラやホイットニー・ヒューストンは、ダイアナ・ロスがいたから、今の自分たちがいる、と語ります。モータウン最大の功績は、ヒット曲の量産以上に、黒人の地位向上だったのでしょう。(写真出典:amazon.co.jp)

マクア渓谷