九州ではアラ、全国的には九絵(クエ)と呼ばれます。十数年前、関西の料理屋で、九絵の煮物を何度か食べました。憧れの魚だったので感動しました。同じ高級魚のハタ科の魚らしく、淡泊ながらうま味があり、食感のよい魚でした。店の人に、鍋で食べてみたいと言うと、入荷が限定的、かつ高価なので難しいとのことでした。ところが、その後、各地で養殖に成功し、比較的安定的に食べられるようになりました。まだ出荷量も多くはないので、お安くというわけにはいきませんが。
あまり知られていないようですが、静岡県の御前崎では、県が中心となり20年以上前から九絵の養殖を行っています。御前崎では温水を使って養殖していました。温水を使うと、餌の摂取量が倍になり、生育が早いのだそうです。やや気になったのは、その温水が浜岡原発の冷却水だということです。もちろん、まったく汚染されていない温水であり、食用には問題ありません。頭では理解できるのですが、なんとなく気になりました。原発が稼働していない今、九絵の養殖はどうなっているのかな、と思います。
最近は、マグロの養殖で名を挙げた近大が、和歌山県で九絵の養殖もおこなっており、「紀州本九絵」というブランドで出しています。九絵の養殖は、なかなか難しいものらしく、冬場は紀州から奄美大島へ移して育てると聞きます。それにしても近大の養殖技術は見事なものです。マグロ、九絵の他にも多数取り組んでおり、あなごもブランド化しているようです。あくまでも噂話ですが、近大と和歌山県は共同で、イルカの養殖も試みていると聞いたことがあります。シーシェパード等からの批判に対応してのことなのでしょう。
養殖の広まりとともに、最近は、東京でも九絵を食べることができます。なかには天然をうたっている店もあります。もちろん冷凍でしょうが。数年前、和歌山で、寿司、刺身、から揚げ等に、最後は鍋という九絵づくしコースを食べたことがあります。当初、養殖ものと聞いていたのですが、当日、店に行くと、今日は天然ものが入った、どうする? と聞かれたので、迷わず天然ものでお願いしました。どの皿もとても美味しくいただきましたが、やはり鍋が絶品だと思いました。できれば年に一度くらいは食べたいものだと思います。ふぐ鍋と九絵鍋、いずれかと言われれば、おそらく九絵鍋を選ぶと思います。(写真出典:nagasaki-sasara.net)