
ただ、舞台となる世界各地の街の風情やその国が抱える問題が、うまく書かれており、スパイ小説というよりは、世界のガイドブックでした。長寿シリーズの秘けつは、ここにあるのではないか、とさえ思います。例えば「ソマリア人質奪回作戦」の舞台は、ソマリアの首都モガディシオ。イブン・バトゥータや鄭和も訪れた古くからの交易港。美しい町並みに美しい女性たちと魅力的に描かれています。いつか行ってみたいと思ったものです。残念ながら、現在のモガディシオは、内戦で徹底的に破壊され、廃墟となっています。
東西冷戦が終わると、エスピオナージ系は勢いを失います。スパイの存在意義が無くなったからです。エージェントたちの敵は、ソビエトからテロリストやナルコ(麻薬密輸業者)へと移ります。プリンス・マルコも同様の道を進んだようですが、1980年を境に翻訳本は、3冊の例外を除き、出版されていません。それでも計63冊の翻訳本が出版されたわけで、驚異的と言えます。私も30冊くらいは読みましたが、さすがにそのくだらなさに力尽きました。
007の著者イアン・フレミングが、パーティでジョン・F・ケネディに紹介された際、大統領から「私は007シリーズの大ファンです」と言われます。イアン・フレミングは「ありがとうございます。ただ、大統領閣下には、もっとマシな本をお読みいただきたい」と応えたそうです。
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