1954年、マクドナルド・コーポレーションの創業者であるレイ・クロックは、ミキサーのセールスマンとしてマクドナルド兄弟の店を訪れます。彼が驚いたのは味ではありません。スピード・サービス・システムが実現した回転率の高さです。マックが世界を席捲できたのは、システマティックな製造過程とセルフ・サービスであり、それを世界中どの店舗でも確実に運用できるマクドナルド・クック・ブックというマニュアルの存在です。物も、金も、情報も十分ではなかった時代は、売り手主導のマス・マーケティングが主流であり、マニュアルは実に有効な手立てでした。
大統領候補にもなった実業家ロス・ペローは、イラン革命直後、革命軍に捕らえられた自社の従業員を救出するため、元軍人からなるチームを作ります。山中で訓練するチームの夕食を調達するために2人がマックに出向きます。ビッグマック50個くらいをオーダーすると、店員が「Stay or To go ?」と聞いたそうです。吹き出しました。クック・ブックの威力と弱点がよく分かる話です。物、金、情報があふれ始めると、買い手個人主導のセグメント・マーケティングの時代になり、脱マニュアル化の動きがおこります。
代表は、スターバックス。その店舗コンセプトは「街のなじみのコーヒー屋」。笑顔までマニュアル化したマックと異なり、従業員の個性を重視、一切、社内教育はしません。マーケティングは時代と共に変遷すると教わります。それを全面否定するつもりはありません。ただ、マックのビジネス・モデルは今でも有効です。マックとスタバの違いは、マーケティングの新旧ではなく、あくまでもターゲットの違いによるものだと思います。ターゲットを明確にできれば、マーケティングは、ほぼほぼ成功します。
近年、マニュアルは、従来と異なる効用が認められています。マニュアル化できる仕事は、ロボテックスとAIで自動化しやすい面があります。マニュアルは、自動化設計のたたき台として活用できるわけです。マクドナルド・クック・ブックも、クック・プログラム、あるいはクック・アルゴリズムと呼ばれる日も近いように思います。(写真出典:newsweekjapan.jp)