2020年9月10日木曜日

チェック&バランス

ジョン・アクトン卿の「権力は腐敗の傾向がある。絶対的権力は、絶対的に腐敗する」は、あまりにも有名な言葉ですが、農耕と共に組織が形成されて以降、人類は、権力の腐敗と戦ってきたと言えます。組織の持つ効率性と表裏一体を成し、避けて通れない悪なのでしょう。その対策が本格化したのは、古代ギリシャや古代ローマ。考えられる対策のほぼ全てが試されています。近代以降の諸対策は、ギリシャ・ローマの制度を洗練させたものと考えられます。

代表的な対策の一つが民主主義であり、その実効性を担保するのが三権分立です。ロック、モンテスキューによって唱えられ、いまや近代国家成立の主要要件とも言えます。とりわけアメリカ憲法に記載される三権分立は、チェック&バランスと呼ばれ、米国政治の基本中の基本と言えます。しかし、ドナルド・トランプは、いとも易々と、これを逆回転させ、独裁に近い政治体制を作り上げました。恐ろしいと思うのは、トランプが、憲法や法令を変えて独裁を実現したわけではない、という点です。

つまり、完璧と思われた米国のチェック&バランス・システムは、まっとうな政治家によるまっとうな政治を前提に構成されており、政治経験もなく自己顕示欲ばかりが強いTVタレントによる売名目的の行為を想定していなかった、ということになります。あたかも国政が乗っ取られた印象です。共和党も乗っ取られました。もはやアメリカに二大政党制は存在しません。とは言え、先人たちを、制度設計が甘かったと責めることはできないでしょう。

トランプが、反エスタブリッシュメントの新たな政治体制を作るというのなら、まだ分かります。ただ、そんな気も、そんな動きもありません。ひたすらイメージづくりと支持者からの人気取りにまい進する姿は、視聴率獲得をねらうタレントそのもの。そして実に巧みだと言わざるを得ません。敵・味方の作り方、公私の不明確なSNSの使い方、人事のメリハリ、グッズの使い方等々、感覚的にせよTV界で鍛えた技が光ります。

数年前、「近い将来、日本に独裁は生まれるか?」というジョークがはやりました。答えはNO。なぜなら、既に独裁化しているから、という落ちです。日米のトップに、まっとうな政治家が就くことを祈るばかりです。
写真出典:amazon.co.jp

マクア渓谷