
今平の造語「重喜劇」を代表する2作品であり、女性のたくましさが描かれています。いずれも東北の因習深い貧困層という設定であり、戦前の日本の古い体質が強調されています。昆虫記では、売春をテコに古い世界から抜け出した女性と、彼女を追いこして進む次の世代が描かれています。赤い殺意では、抑圧された女性が、強姦されたことを機に、古い世界でイニシアティブを獲得していきます。いずれも、抑圧され、不幸が重なる主人公のあっけらかんとしたたくましさが印象的です。彼女たちは、旧体制に虐げられ、戦後、自らの道を進み始めた日本の大衆を象徴しているのでしょう。
カンヌでパルムドールを2回、日本アカデミー賞で監督賞を3回受賞という巨匠は、1926年の生まれ。戦争の時代、あるいは戦場を経験した人たちの旧体制への憎悪は半端ないものがあります。日本をあの不幸な時代へと導いたのは誰か、何故か、そして二度と同じ過ちを繰り返してはならない。彼らの執念は、薄れることなく次の世代に受け継がれるべきと考えます。
写真出典:books.rakuten.co.jp