越中おわら節は、日本の民謡のなかで最もスローテンポな曲ではないかと思われます。高音で歌われる哀愁を帯びた曲調は、民謡のなかでも難曲とされます。7・7・7・5の26文字が基本の歌詞は、新作も含め、3千を超えるそうです。伴奏は、三味線、胡弓、太鼓。特に胡弓の音色が、深い味わいを醸し、古い町並みに良く合います。おわら節は、心に染み入り、いつまでも聞いていたくなります。

いくつか用意された舞台で、あるいは通りで列を組んだり輪になって踊ります。真夜中を過ぎると、町流しが始まります。町流しは、気の合った者同士が、三々五々、夜中の町を流します。いつどこで始まるかも全く分かりません。そこでは、女性たちも編笠を取り、年齢も関わりなく踊ります。八尾の宿泊施設に限りがあることから、押し寄せた観光客も帰り、ここから本当の風の盆が始まります。静まり返った町に、かすかに三味線と胡弓が聞こえはじめると、暗闇から踊り手たちが現れます。まさに幽玄の世界。タイムスリップしたかのような感覚にとらわれます。
ところが、近年、始発電車まで居残り、町流しを見ようという観光客が激増しました。もはや幽玄というにはほど遠い世界になりました。私が、風の盆をあきらめざるをえなかった理由です。
写真出典:minatokobe.com