2020年8月4日火曜日

おわら風の盆

毎年、 9月1〜3日は、 三百年の歴史を持つという越中八尾のおわら風の盆が行われます。 江戸期の風情を残す街並が、三日間だけ、情趣深い世界へと入ります。 すっかり魅せられて、 5回ほど通いました。 ここ数年は、 理由があって中断していました。 また 行こうかなと思っていたら、 今年は、 コロナで中止とのこと。 やむなし。

越中おわら節は、日本の民謡のなかで最もスローテンポな曲ではないかと思われます。高音で歌われる哀愁を帯びた曲調は、民謡のなかでも難曲とされます。7・7・7・5の26文字が基本の歌詞は、新作も含め、3千を超えるそうです。伴奏は、三味線、胡弓、太鼓。特に胡弓の音色が、深い味わいを醸し、古い町並みに良く合います。おわら節は、心に染み入り、いつまでも聞いていたくなります。

踊りは、農作業を模した豊年踊りと新踊りがあります。新踊りの男踊りは案山子踊り、女踊りは四季踊り。四季踊りは、蛍狩りを表すと言われ、揃いの浴衣に黒帯の女性たちが、編笠で顔を隠し優美に舞います。所作は指先まで神経が行き届き、そこはかとなく上品な艶を感じさせます。日本的女性らしさの典型のようでもあり、類を見ない踊りです。かつては二十歳前の生娘だけが躍ることを許されたと言います。現在は、青年団に所属する女性たちが踊っているとのこと。

いくつか用意された舞台で、あるいは通りで列を組んだり輪になって踊ります。真夜中を過ぎると、町流しが始まります。町流しは、気の合った者同士が、三々五々、夜中の町を流します。いつどこで始まるかも全く分かりません。そこでは、女性たちも編笠を取り、年齢も関わりなく踊ります。八尾の宿泊施設に限りがあることから、押し寄せた観光客も帰り、ここから本当の風の盆が始まります。静まり返った町に、かすかに三味線と胡弓が聞こえはじめると、暗闇から踊り手たちが現れます。まさに幽玄の世界。タイムスリップしたかのような感覚にとらわれます。

ところが、近年、始発電車まで居残り、町流しを見ようという観光客が激増しました。もはや幽玄というにはほど遠い世界になりました。私が、風の盆をあきらめざるをえなかった理由です。
写真出典:minatokobe.com

マクア渓谷