2020年8月3日月曜日

孫子の兵法

米国の国際政治学者エドワード・ルトワックは、「戦略論」(2014)のなかで、中国の軍事的な自信過剰の危険性を指摘します。軍事衝突が起きると、中国は、高い確率で初戦に敗退し、それによって紛争は、長期化、拡大することが懸念されるとしました。自信過剰の文化的背景として、毛沢東はじめ中国のリーダー層が愛読する武経七書の影響をあげています。

武経七書は、春秋戦国時代に著された兵法に関する古典七編の総称です。最も有名なのが、孫子ということになります。日本でも、経営者の皆さんに大人気です。孫子の兵法の特徴は、兵法を、戦術論ではなく、戦略論、政略論として、統治のなかで捉えていることだと思います。「戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり」、「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」、あるいは「人を致して人に致されず(主導権を握る)」といった言葉がよく知られています。

ルトワックによれば、武経七書は漢民族同士の戦いのなかで生まれており、敵も同じように考えるということが大前提になっていると言います。例えば、戦わずして勝つとは、敵が兵力・時勢等において自軍が劣ると考えれば、戦う前に平伏するはずだという前提に立っているわけです。よって、漢民族は、自軍の戦闘能力を高めるよりも、自軍を誇示することを優先する傾向があると言っています。

当然、異なる考え方を持つ敵に対しては、まったく通用しない場合が出てきます。歴史的に見て、漢民族の対外戦争の戦績は、決して芳しいものではありません。モンゴル族、満州族、英国、日本、ヴェトナム等には敗れ、朝鮮半島では米軍と引き分けています。現在の人民解放軍が弱いというのではありません。兵員数、物量、核兵器等、強大な軍事力を有しています。初戦を落とす確率が高いというのは、スタンスの問題です。いずれにせよ、自軍を誇示するという漢民族のDNAは、そこここでややこしい話を生み続けています。当然、それは偶発的な火花の発生確率を高めることにもなります。
孫子   出典:xtrend.nikkei .com

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