2020年8月2日日曜日

朝香宮邸

博物館も美術館も、英語ではMuseumとなります。美術館は、Art Gallaryという言い方もありますが、画廊という意味でも使います。いずれにしても、明確な区分があるわけではないということなのでしょう。白金台の東京都庭園美術館の英語名はTokyo Metropolitan Teien Art Museumとなります。企画展の展示だけではなく、建物と庭園も展示品なので、工夫したネーミングなのだと思います。特に庭園を固有名詞的に使っているところがポイント。

東京都庭園美術館は、私の大のお気に入りの場所。正直言って、美術館としてよりも、旧朝香宮邸として気に入っています。わずかな入場料で、この素晴らしい邸宅と庭園に入れることは幸いだと思います。旧朝香宮邸は、1933年竣工。アール・デコ様式の邸宅です。簡潔で機能的とも言えるデザインの建屋は、必ずしも大邸宅ではありません。最大の特徴は、内部も含め、そこはかとない上質感を漂わせていることだと思います。内部には、ルネ・ラリックの作品はじめ、アール・デコの意匠がそこここにちりばめられています。

ただ、旧朝香宮邸の魅力は、単なるアール・デコ・デザインだけではありません。アール・デコのエッセンスはそのままに、日本的センスで仕上げられていることが最大の魅力です。そのことが上質さを生み出しています。見事に西洋風でありながら、西洋の邸宅で受ける印象とはまったく異なる風情があります。それもそのはず、アール・デコの芸術家アンリ・ラパンによる各室の設計を元に、宮内省の技師であった権藤要吉が全体を設計しています。いわばアール・デコのデザインと日本的伝統の粋が、無理なくコラボしているわけです。

朝香宮鳩彦親王は、フランス留学中、北部ベレネーで交通事故にあい、重症を負います。駆け付けた夫人の充子内親王とともに、長期に渡りフランスで療養生活を送ります。当時のフランスはアール・デコ全盛。すっかり魅せられたご夫妻は、帰国後、この傑作を建てられました。

アール・デコは、ゴテゴテしたアール・ヌーヴォへのアンチテーゼとして、1910年代から流行。主にアメリカで、工業デザインとして全盛を極めます。エンパイヤー・ステイト・ビルはじめ、NYには多くのアール・デコ建築が残ります。ただ、1929年に世界恐慌が起こると、アメリカ経済と共に廃れていきました。
写真出典:wikipadia

マクア渓谷