
ただ、旧朝香宮邸の魅力は、単なるアール・デコ・デザインだけではありません。アール・デコのエッセンスはそのままに、日本的センスで仕上げられていることが最大の魅力です。そのことが上質さを生み出しています。見事に西洋風でありながら、西洋の邸宅で受ける印象とはまったく異なる風情があります。それもそのはず、アール・デコの芸術家アンリ・ラパンによる各室の設計を元に、宮内省の技師であった権藤要吉が全体を設計しています。いわばアール・デコのデザインと日本的伝統の粋が、無理なくコラボしているわけです。
朝香宮鳩彦親王は、フランス留学中、北部ベレネーで交通事故にあい、重症を負います。駆け付けた夫人の充子内親王とともに、長期に渡りフランスで療養生活を送ります。当時のフランスはアール・デコ全盛。すっかり魅せられたご夫妻は、帰国後、この傑作を建てられました。
アール・デコは、ゴテゴテしたアール・ヌーヴォへのアンチテーゼとして、1910年代から流行。主にアメリカで、工業デザインとして全盛を極めます。エンパイヤー・ステイト・ビルはじめ、NYには多くのアール・デコ建築が残ります。ただ、1929年に世界恐慌が起こると、アメリカ経済と共に廃れていきました。
写真出典:wikipadia