2020年8月24日月曜日

ギロチンとクロワソン

18世紀、フランス、民衆が今日食べるパンにも困っていると聞いたマリー・アントワネットは「パンが無ければ、ケーキを食べればいいわ」と言ったとされます。民衆から乖離し、浮世離れした生活を送る貴族の傲慢さを象徴する話であり、フランス革命のトリガーにもなったとされる有名な話です。ただ、これはフェイク・ニュース。実際に、こう言ったのは、トスカーナ公国のさる公爵夫人。マリー・アントワネットは、宮廷費を削り、貴族から募金を募り、民衆に食料を届けていました。フェイク・ニュースを流したのは、マリー・アントワネットが進める宮廷改革に不満を持つ一部貴族たちでした。

後に良妻賢母となるマリー・アントワネットも、嫁いだばかりの頃は、かなりヤンチャだったようです。実家を離れた年頃の小娘なら当然とも思いますが、母マリア・テレジアから厳格に育てられた反動でもあるのでしょう。肖像画を見ると、絶世の美女というわけでもなく、むしろ典型的なハプスブルグ顔と言えます。ただ、豊かな金髪は人々を驚かせ、何よりも世界一の宮廷で身に着けた優雅な身のこなしにフランス宮廷はひれ伏したと言われます。彼女が、ウィーンから持ち込んだものは、優雅な立ち振る舞いに加え、上品なファッション、入浴の習慣、花の香水、上質な家具、コーヒー等があります。フランス文化の多くは、彼女に負うところが大きいわけです。おいしいパンも、その一つ。

当時、欧州ではデンマーク人が最高のパン職人とされていました。今もデニッシュという言葉が残るくらいです。マリー・アントワネットも、実家からデンマーク人のパン職人を連れてきます。彼は、マリー・アントワネットのために、デニッシュの生地を三日月型に折り込んだパンを焼き上げます。クロワソンの誕生です。日本ではクロワッサンと呼ばれますが、どこでも通じません。フランスではクロワソン、アメリカではクロサーン、ドイツではギッフェリと呼ばれます。私は、ル・フィガロが世界一と認めたメゾン・カイザーのクロワソンが大好きです。香ばしさと発酵バターの風味のバランスの良さが見事。毎朝でも食べれます。

フランス革命で、ギロチンの露と消えたマリー・アントワネットですが、ある逸話が残ります。通常、ギロチンに首を入れる際、体は下向きになります。マリー・アントワネットは、気丈にも上向きに首を入れ、刃が落ちてくるのを見ていたというのです。これまた真っ赤なウソ、フェイク・ニュース。ただ、民衆が、彼女の矜持の高さ、堂々たる最後に感銘を受けたことを伝える話だとも言えます。
写真出典:fr.wikipedia.org

マクア渓谷