2020年8月13日木曜日

白人特権

手をポケットに入れてはいけない。買わないものを触らない。何かを買ったらレシートかレジ袋なしで店を出てはいけない。身分証明書なしに外に出てはいけない。白人の女性をじっと見てはいけない。警察に職務質問されたら、反論してはいけない。

これは、米国の黒人家庭で、子供たちが叩き込まれる訓えの一部。トラブルを避けるための処世術ではありません。生き残るために最低限守るべき鉄則だというのです。米国の黒人が置かれた差別の恐ろしい現実です。米国の人口に占める黒人の割合は13%。警官に殺された市民に占める黒人の割合は23%。圧倒的に他の人種を上回ります。全米の囚人の黒人と白人の比率は5:1。法が変わり、制度が変わっても、差別がもたらす理不尽な恐怖は、百五十年前の南部と何一つ変わっていなのではないでしょうか。


チェルシー・ハンドラーの「私と白人特権」(2019)というドキュメンタリーを見ました。チェルシー・ハンドラーは、米国のユダヤ系コメディアン。スタンダップ・コメディをベースに、メディアを活用することで、大スターになりました。チェルシーのNetflixにおける番組やドキュメンタリーは、スタンダップのトークそのままに、差別、性、政治等、社会のタブーに皮肉をこめて切り込みます

今回は、かなりストレートに、自身の過去の経験と向き合いながら、多くの人と語り合います。チェルシーは、高校生の頃、家を飛び出し、黒人の恋人と同棲し、酒と麻薬におぼれます。何度か逮捕されますが、自分だけはすぐ釈放されたと言います。まさに白人特権だったわけです。ところが、当時の本人は、それを白人特権だとは認識していませんでした。それが白人特権の大きな特徴でもあります。

チェルシーから、白人特権に関するインタビューを受けた黒人たちの多くは、とまどいを見せます。もう、その手の話はうんざりだよ、いくら話しても何も変わらない、白人特権の問題は、白人同士で話し合い、解決すべき問題だよ、と言うのです。目からウロコでした。差別問題は、差別者と被差別者との関係の問題ではなく、差別者の内面の問題と捉えるべきということなのでしょう。
Chelsea Handler  出典:tvline.com

マクア渓谷