2020年8月12日水曜日

怠け者の車

欧州でレンタカーした時、驚いたことがあります。オートマチック車が稀だったのです。近年は、高級車はオートマ化し、マニュアルとオートマを組み合わせたDCT車も増えていますが、欧州は圧倒的にマニュアル車の世界です。驚いた、とイタリア人に言ったら、「オートマ車なんて、怠惰な人間の車だ」と言われました。

オートマチック・トランスミッションは、1940年代、アメリカで開発され、瞬く間に一般化します。アメリカの自動車を巡る環境は、日本や欧州と大きく異なります。ガソリンが安いこと、国土が広く高速道路も発達していること、生活必需品として誰でも運転すること、郊外の急速な発展とともに渋滞が発生したこと等です。真っすぐな道を長時間ドライブすることを前提とすれば、大型化、トルク重視、フワフワのスプリング、オートクルーズも納得できますし、加えて、女性も老人も運転する必要性から、オートマ、パワステ等イージー・ドライビングも追及されたわけです。

対して欧州は、狭くて曲がりくねり山坂も多い道、石油は輸入が多く安くないこと、公共交通が発達していること等、燃費で劣るAT車には不向きと言えます。ただ、それ以上に、自動車に対する認識の違いが大きいように思えます。要は、馬車の長い歴史を持つ欧州人にとって、自動車は単なる自走馬車なのだと思います。日常的に長時間運転することもないので、イージードライブや快適でラグジュアリーな車内なども必要ないのです。単なる道具ですから、頻繁に新車に乗り換えることもありません。もちろん、貴族向けのスポーツカーや高級車も発達したわけですが、ごく一部の話です。

日本は、環境的には欧州に近いと思います。事実、1985年時点、オートマ車は半数に満たなかったのです。では、なぜオートマの国になったのか。日本の自動車輸出は、80年代に入り、アメリカ向け、つまりオートマ車を中心に大幅に拡大。輸出比率は半数を超えます。自動車メーカーとしては、国内向けにもオートマ車の生産を拡大することが、コストダウンにつながります。日本のオートマ化はメーカーの戦略だったように思えます。
アメ車のコラムシフト  写真出典:car-moby.jp

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