2020年7月13日月曜日

「在りし日の歌」

2019年中国    監督:ワン・シャオシュアイ

☆☆☆+

中国第六世代の名匠ワン・シャオシュアイの3時間を超す大作。不幸な事故で息子を失った夫婦の30年。ちょうど中国が大きく変貌した時代を描いています。ただ、時代を語る口調が、やや生ぬるい点がもどかしいところです。検閲の関係で、これが精一杯なのでしょうが。主演の二人は、ベルリン映画祭で主演男優賞と主演女優賞をダブル受賞。抑えたいい演技でした。手練れたスキのない演出もさすがです。音楽が、また面白い。説明的音楽はなくて、「蛍の光」が効果的に繰り返されます。原曲は、スコットランド民謡であり、変わらぬ友情を歌っています。本作の原題「地久天長」は、蛍の光の中国語タイトルでもあります。

不幸な事故や国家政策に翻弄された二組の夫婦の友情は変わることがなかった、という物語は、国家のあり方に惑わされることなく、国民は一致団結しよう、と言いたいのかもしれません。回想が交差する複雑な時間軸ですが、時系列的に社会背景を見れば、国営企業がすべてだった時代、一人っ子政策の展開、市場経済化で崩壊する国営企業、改革開放で甘い汁を吸う党幹部、甘やかされた子供たち、海外への展開、格差の拡大といった流れでしょうか。大きな変化に翻弄され続けた民衆こそ、監督が描きたかったところなのでしょう。

過日、中国系アメリカ人監督による「一人っ子の国」(2019)というドキュメンタリー映画を見ました。一人っ子政策が、単なるスローガンではなく、残酷な徹底力をもっていたこがよくわかりました。中絶、不妊手術が強制され、母性を否定され女性たちが泣き叫び、党の末端にいる普通の人々が中絶を強制する、政府はその成果を表彰する、地方幹部は海外への違法養子ビジネスで儲ける。本作に描かれた一人っ子政策や、それに関わった人々の苦悩は、どこにでもある光景だったのでしょう。

指名解雇を行う国営企業の党幹部が「もう鉄の椀はない!」と叫びます。久しぶりに聞いた言葉です。「鉄の椀」とは、国家が食い扶持を保障するという意味で、完全雇用を象徴しています。映画は、国営企業が社会そのものだった時代を、皆が貧しく、皆が平等で、皆が幸せだった時代として描いています。

マクア渓谷