☆☆☆+
中国第六世代の名匠ワン・シャオシュアイの3時間を超す大作。不幸な事故で息子を失った夫婦の30年。ちょうど中国が大きく変貌した時代を描いています。ただ、時代を語る口調が、やや生ぬるい点がもどかしいところです。検閲の関係で、これが精一杯なのでしょうが。主演の二人は、ベルリン映画祭で主演男優賞と主演女優賞をダブル受賞。抑えたいい演技でした。手練れたスキのない演出もさすがです。音楽が、また面白い。説明的音楽はなくて、「蛍の光」が効果的に繰り返されます。原曲は、スコットランド民謡であり、変わらぬ友情を歌っています。本作の原題「地久天長」は、蛍の光の中国語タイトルでもあります。

過日、中国系アメリカ人監督による「一人っ子の国」(2019)というドキュメンタリー映画を見ました。一人っ子政策が、単なるスローガンではなく、残酷な徹底力をもっていたこがよくわかりました。中絶、不妊手術が強制され、母性を否定され女性たちが泣き叫び、党の末端にいる普通の人々が中絶を強制する、政府はその成果を表彰する、地方幹部は海外への違法養子ビジネスで儲ける。本作に描かれた一人っ子政策や、それに関わった人々の苦悩は、どこにでもある光景だったのでしょう。
指名解雇を行う国営企業の党幹部が「もう鉄の椀はない!」と叫びます。久しぶりに聞いた言葉です。「鉄の椀」とは、国家が食い扶持を保障するという意味で、完全雇用を象徴しています。映画は、国営企業が社会そのものだった時代を、皆が貧しく、皆が平等で、皆が幸せだった時代として描いています。