2020年7月11日土曜日

春香伝

1997年、アジア通貨危機が発生すると、急速に外貨準備を減らした韓国は、IMFの支援を要請するしかありませんでした。IMFは、財政再建に向け、財閥解体、雇用法見直し等、徹底的な自由化政策を推進。中小企業の倒産が相次ぎ、街には失業者があふれます。一方、IMFは外貨獲得のための政策も展開します。その一つが、映像・音楽コンテンツの輸出でした。BTSによる全米ヒットチャート№1、ポン・ジュノ監督「パラサイト」のアカデミー作品賞獲得は、韓国が20年積み上げてきた国家政策の成果でした。

パンソリ     出典:konest.com
私は、韓国映画をよく見ます。エンターテイメント性が高く、特に脚本の素晴らしさには驚かされます。ただ、多くの外貨を獲得しているのはドラマの方だと思われますが、私は、一切見ません。ぶっ飛んだ設定に、強烈にくどい展開、どうも苦手です。そこで多く使われている構図が「才子佳人」です。地位や資産ある男性と市井の女性との恋愛。よくあるパターンですが、韓国の場合、その原型はパンソリの代表作「春香伝」にあると言われます。

地方に代官として赴任したヤンバン(両班・貴族)の息子・夢龍と、地元のキーセン(妓生・芸妓)の娘・春香が恋に落ちる。夢龍とその家族は、転勤で都に戻る。後任の代官がひどい奴で、春香を手籠めにしようとするが、拒否され、投獄・拷問する。都で科挙に合格した夢龍は、監察官として戻ってきて、代官の悪事をあばき、春香を助けだす。二人は身分の差を乗り越え結ばれる。

代官にいじめられる娘の苦悩、恋する二人に立ちはだかる身分の格差等、いくらでも話を膨らますことができます。歌い手と太鼓だけで演じられる民間芸能パンソリは「ハン(恨)」の文化を体現すると言われます。ドラマティックに歌い上げるパンソリに春香伝はピッタリの演目。ちなみに上演時間は、休憩なしで最低8時間かかると聞きます。

「才子佳人」パターンは、世界中にあります。ただし、それは身分格差が大きかった過去のものであり、時代劇でのみ見られる構図です。しかもかなり使い古した定番パターンにすぎません。それが韓国では、今でも現代劇でよく使われているわけです。韓国が抱える格差社会という問題点の一つが、ここにはっきり現れています。

マクア渓谷