2020年7月3日金曜日

「凱里ブルース」

2015年中国  監督:ビー・ガン

☆☆☆☆

文化大革命収束後、中国映画界には、「さらば、わが愛/覇王別姫」等のチェン・カイコー、「紅いコーリャン」等のチャン・イーモウといった第五世代と呼ばれる監督たちが登場し、人間そのもの、貧しい社会等を正面から捉えたドラマティックな名作を生み出します。六四天安門事件後に登場したのが第六世代。「北京の自転車」のワン・シャオシュアイ、「長江哀歌」のジャ・ジャンクー、「二重生活」のロウ・イエ、ドキュメンタリーのワン・ピン等です。虚無感漂う都市部の暗部を、軽量化された撮影機材で撮ります。当局の検閲との戦いも激化し、テーマはより個人にフォーカスする傾向があります。

近年、第七世代と呼びたくなる監督たちが登場しています。厳しい検閲が生んだものかもしれませんが、優れて詩的な映像が特徴のように思います。例えば「薄氷の殺人」のディアオ・イーナンは第六世代なのでしょうが、感覚がさらに新しいと思います。そしてビー・ガンですが、映画監督というよりも、詩人、あるいは映像作家といった風情です。もはや世代ではなく、個性と考えるべきなのでしょう。映画の新しい形が誕生したのかもしれません。

「凱里ブルース」は、「ロングデイズ・ジャーニー」に先立つ、監督デビュー作。監督の故郷である貴州省凱里周辺の山深い村で撮影されています。ドラマ性を抑えたドキュメンタリー・タッチとも言えますが、むしろホームビデオ的であり、観客は容易に映像の中に取り込まれます。映像が、流れるような一つの詩を構成しており、淡々としているにも関わらず、飽きることがありません。湿潤で緑濃いミャオ族の村の生活は、郷愁を誘いますが、それ以上に人々の営みの深さを身近に感じさせます。

低予算のため、スタッフも役者も地元の人々の協力を仰いだとのこと。それはそれで良い風情を出しています。ただ、監督は不満だったようで、40分に渡るワンショットは、「ロングデイズ・ジャーニー」の60分3Dワンショットに比べると、確かに技術的制約をうかがわせます。ただ、それすらも味わい深さを感じさせています。
写真出典:imageforum.co.jp

マクア渓谷