2020年7月2日木曜日

ミリシア

アメリカの田舎で、黒っぽい大きなピックアップ・トラックに乗った迷彩服の男たちを見たら、ほぼミリシアだと思って間違いありません。ミリシアは、米国憲法修正第2条に規定される権利に基づく民兵組織です。しっかりとした組織を持ち、HPまである大組織から、田舎町の数人の組織まであります。正確な数は分かっていませんが、数百と言われます。

その性格も、明確な主義主張のあるものから、単なるハンティング同好会的なものまで千差万別。ただ、殺傷力の高い武器を手に攻撃的な訓練を行っている点は共通します。多くは反政府主義、反知性(反エスタブリッシュメント)主義、リバタリアン、人種差別といった傾向が強いと思われます。彼らが三度の飯より好きなのは連邦政府陰謀論。世の中で、彼らにとって具合の悪いこと、例えば、黒人や移民がはびこること、仕事が減ったこと、すべて連邦政府の陰謀だと信じています。スタンド・アローンは、アメリカ人の好む精神です。政府のみならず、介入されることが大嫌いな人たちと言えます。

95年、千人を超える死傷者を出したオクラホマ・シティの連邦政府ビル爆破事件は、ミシガンのミリシアによるテロでした。また、2016年、オレゴンで起きたマルヘア自然保護区占拠事件、通称オレゴン・スタンドオフでは、国有地の利用を巡る連邦政府と農民の争いに、全国から武装ミリシア150人が集結し、武装したFBIと長期に渡り対峙しました。最近のBlack Lives Matterデモには、ブーガルーと呼ばれる新手のミリシアが重装備で参加していると聞きます。武装アナキスト集団も参加しているようではありますが。

その歴史は、独立戦争までさかのぼります。招集されると1分で駆け付けるという意味で名付けられた民兵ミニット・マンは、独立戦争の英雄です。独立直後に制定された憲法修正2条において、民兵は国家の安全のために必要であるから、人民が武装する権利を侵してはならないと定められています。時代錯誤も甚だしいと言えばそれまでです。一方、ここまで多様性を許容するから民主主義は成り立っているとも言えます。昨今、ファシズム的国家やファシスト的手法を用いる政治家がはびこるなか、政府の関与を嫌うミリシアは「国家の安全のために」貴重な存在かもしれません。もちろん、法の範囲内でのことですが。
オレゴン・スタンドオフ時のミリシア  出典:Le Enforcement

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