2020年7月29日水曜日

岩瀬で白えび

富山湾でしか獲れない白えびは、独特のコクと風味がたまらない絶品。唯一無二の味です。一年に一度は食べたいと思います。食べるなら、岩瀬港の「松月」で食べるのが理想的だと思います。北前船の栄華を偲ばせる岩瀬港にあって、明治時代創業という老舗料亭。白えびのコースが有名ですが、なかでも二百数十匹の生の白えびを団子にしてあぶった福だんごは絶品中の絶品。名物女将から、足の速い白えびは、氷水に浸した人の手で、一匹づつ殻むきすると聞きました。なんという贅沢。

富山湾は、立山連峰が、そのまま落ちる急こう配の深い海。そこへミネラル豊富な立山の清水が勢いよく流れ込みます。白えびは、その環境のなかでしか生育しないと言います。さくらえびが有名な駿河湾も類似した環境で、白えびも生息しているようですが、漁ができるほどではないようです。ホタルイカも同様ですが、足が速いので、港のすぐ前に深海の漁場があることが大きな利点となっています。旬は春から夏。

岩瀬港は、富山市内。北前船で栄えた港には、江戸期の街並みが残ります。国の重文にも指定される廻船問屋の森家は、全国から集めた貴重な建築資材に往時の隆盛を見てとれます。廻船問屋は、行きも帰りも、荷物を満載することで「のこぎり商売」とも呼ばれたそうです。行きは米や酒に薬、帰りは反物や薬の原料。越中富山の薬売りも、この港から全国へと営業に出かけたのでしょう。先用後利の置き薬は、見事なビジネス・モデル。江戸期の交通網の発展が前提の商売ですが、置き薬の全国展開を実現した緻密な経営は、世界に誇るべきものだと思います。薩摩藩の密貿易を支えたという薬売りによる昆布貿易も、ここ岩瀬港が拠点だったはずです。

富山は、勝駒、立山をはじめとする銘酒どころでもあります。岩瀬にも満寿泉の桝田酒造があり、おいしい酒が味わえます。白えびも酒も、富山の豊かな清水が生んだものと言えます。松月の女将さんは「富山の水は日本一美味しい。にもかかわらず、最近の若い人たちは、コンビニで、どこのものと知れぬペットボトル入りの水を買っている。嘆かわしい。」と言っていました。確かに、おっしゃるとおり。
松月の福だんご    出典:hitosara.com

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