2020年7月26日日曜日

「誰がハマーショルドを殺したか」

2019年デンマーク・ノルウェイ・スウェーデン・ベルギー 監督:マッツ・ブリュガー

☆☆

1961年9月、国連事務総長ダグ・ハマーショルドが乗ったチャーター機が、ローデシアのンドラ付近で墜落。時は、まさにコンゴ動乱の最中。ハマーショルドは、コンゴからの分離独立を狙うカタンガのチョンベとの停戦交渉に向かっていました。国連、ローデシアの調査は、墜落を事故とします。ただ、当時から謀殺説が有力ではありました。

マッツ・ブリュガーは、ジャーナリストにしてドキュメンタリー作家ですが、突撃取材型の監督です。マイケル・ムーアがそうであるように、まずは明解な自説があり、その証明を映像的に行うのが、この手の監督の特徴です。本作は、演出が過ぎる面があります。結論を明確に言うだけの証拠に欠けるので、取らざる得なかった手法なのかも知れません。そのことが、この映画のドキュメンタリー性を微妙なものにしています。

ベルギー人傭兵のパイロットの関与は、従来から知られています。彼に撃墜を命じたものとして、従来、カタンガ、その背後のベルギー政府、あるいは鉱山会社が疑われていました。そこにサイマーなる南アフリカの民間機関、英国、CIAが浮上したわけです。サイマーの胡散臭さは相当なものです。ただ、傭兵パイロットへの指示は不明瞭。また、イギリスとCIAの関与は、コンゴ動乱の経緯、内情を追わなければ、明確にはできません。それを避けたことで、この映画自体がキワモノ的になったと思います。まあ、突撃取材型にしては、標的があまりにも大きすぎたのでしょう。むしろ、テーマをサイマーに絞った方が良かったように思います。

コンゴ動乱を描いた近年の映画では、「ジャドヴィル包囲戦 6日間の戦い」(16年)が秀逸でした。国連の平和維持軍として駐留したアイルランド軍がカタンガのフランス傭兵部隊に包囲、攻撃されます。弾薬尽きたアイルランド軍は降伏し、捕虜となります。ハマーショルドが、急遽、コンゴへ向かう理由でもありました。コンゴ動乱の構図は、あまりにも複雑です。ベルギーからの独立、独立派の分裂、民族間の対立、軍事クーデター、米ソの代理戦争、利権をめぐる大国や企業の暗躍、周辺国の関与、国連軍の立ち位置、多数の傭兵の存在。アフリカ現代史の縮図でもあります。
写真出典:imageforum.co.jp

マクア渓谷