2020年7月23日木曜日

沼津の干物

沼津港飲食店街     出典:youtube
昔、沼津に泊まると、ホテルの朝食はキャンセルして、港までタクシーを飛ばし、刺身か焼き魚の定食を食べていました。美味しくて安いわけです。今でこそ大観光地ですが、10年くらい前までは、店の数も知れたものでした。ある時、タクシーの運転手さんに、常々疑問に思っていたことを尋ねました。なぜ沼津の干物はうまいのか。「魚が新鮮だからですよ」という答え。それなら日本中の港の干物は等しくうまいはずです。

これは、間違いなく沼津の人たちが結託して、干物製造の秘密を隠しているんだと確信しました。私の仮説は、そのうま味の濃さからして、臭くない”くさや液”の開発に成功し、内緒にしているのではないか、というもの。その後、どうしても気になり、調べてみました。ほぼ当たりでした。臭くないくさや液は開発していませんでしたが、ただの塩水ではなく、しょっつる(魚汁)に近いものを通してから干していました。納得です。道理でうま味が濃いわけです。

この話を自慢気に話すと、物知りから、日本中の干物はそうやって作っている、と言われました。魚を塩水に通している間に、魚のうま味が溶け出しているというのです。だとすれば、他の干物は、結果としての魚汁で、沼津では、魚汁を多少発酵させ、ライトな魚醤を作ったうえで魚を通しているということだと思います。他の港でも、魚醤を使えばいいのに、と思いますが、おそらく塩分が濃くなりすぎるという問題があるのでしょう。ひょっとすると、私が沼津の干物を美味しく感じるのは、塩分の濃さも関係しているかも知れません。まあ、いずれにしても沼津の干物は、格別にうまいわけです。

魚汁を発酵させて作る魚醤は、歴史の古いうま味調味料であり、世界各地にあります。日本では、秋田のしょっつる、能登のいしるが有名ですが、各地に同様のものがあります。外国では、ヴェトナムのニョクマム、タイのナンプラーが有名ですが、これまたアジア中に存在するようです。もっと言えば、アンチョビ・ペーストも魚醤の一形態と言えそうです。

マクア渓谷