2020年7月24日金曜日

「9人の翻訳家」

2019年 フランス・ベルギー   監督:レジス・ロワンサル

☆☆+

「9人の翻訳家 囚われたベストセラー」は、プロットの着想がとても面白い映画です。ただ、良いミステリーは、良いプロットだけでできているわけではりません。ミステリーを構成する他の要素が、脚本上では中途半端、演出では説明的になっています。全体にゴチャついた印象を受けました。面白いプロットですが、ドラマに仕立てることが難しい面もあったのでしょう。

ダン・ブラウンの大ベストセラー、ダヴィンチ・コード・シリーズの「インフェルノ」発売時、事前流出を防ぐために翻訳家を缶詰にしたという実話から着想を得たようです。ダヴィンチ・コードは、本も映画も面白かったのですが、続編からは、少しバタついた印象や大仰さが鼻につきます。ゴルフも疲れてくるとスウィングが早くなります。翻訳も、スピード感重視ではなく、もう少し落ち着いたほうがいいようにと思います。ただ、そうするとページ数が増えすぎるのでしょうが。

翻訳は、本当に難しい仕事だと思います。直訳ですむならAIに任せておけば済みますが、そうもいきません。かといって意訳が過ぎると、まったく別物になったりもします。言葉は、文化の共有を前提に成り立っています。よって、そもそも翻訳には限界があります。日本の徹底した翻訳文化も無理があるわけです。植民地だった歴史を持つ国では、翻訳文化もそこそこ。原文を読めばいいわけですから。日本は、その点、ややこしくなります。

文学作品の翻訳は、創作に近いところもあります。ただ、エンターテイメント小説や映画の翻訳という仕事は、締め切りも厳しく、大変な割には報われない仕事のように思えます。本作では、そのあたりを、もう少し深堀してもよかったように思います。
写真出典:gyao-yahoo.com

マクア渓谷