2020年7月23日木曜日

梁盤秘抄 #1 Palo Congo

後白河法皇は、今様を好み、後世、それらが失われることを恐れ、「梁塵秘抄」を編纂したと言います。梁塵とは、美声で知られた魯の虞公が歌うと梁の上の塵まで動いた、という故事から、音楽に優れることを言います。これはすごいと思うアルバムについて書いていきたいと思います。

アルバム名:Palo Congo(57)   アーティスト:サブー・マルティネス

大ヒット映画「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」のなかで、ピアノのルーベン・ゴンサーレスが、プロとして始めて参加した楽団のリーダーについて「盲目のギタリストで、大男だった。よく殴られたもんだよ」と語ります。盲目の大男とは、アルセ二オ・ロドリゲス。キューバを代表するギタリストです。

「Palo Congo」は、1957年、コンガ奏者のサブー・マルティネスが、アルセ二オ・ロドリゲスをNYに迎えて録音しました。というか、ロドリゲスが好き放題にやっている、ほぼロドリゲスのアルバムだとも言えます。ロドリゲスは、平生、ハバナで、白人向けビッグバンドを率いていました。野太い音、独特のリズム、聞いたらすぐにロドリゲスと分かる唯一無二のギタリストです。ルイス・”サブー”・マルティネスは、ディジー・ガレスピーやアート・ブレイキー等とも共演したコンガ奏者ですが、ジャズのリーダー・アルバムも何枚か出しています。

ロドリゲスは商売でやっている白人向けビッグバンドから離れ、サブーは商売でやっているジャズから離れ、二人のルーツであるアフロ・キューバンにどっぷり浸ります。まるで、日ごろの憂さを晴らすかのようにエネルギーがほとばしる怒涛の演奏。ギター、ベース、コンガ、パーカッションにヴォーカルというシンプルな構成ながら、奥深い世界を作っています。延々と続くリフは、もはやブードゥーの秘儀に参加しているかのような気分にさせられます。

キューバのソンは「ブエナビスタ・ソシアル・クラブ」で大人気となったわけですが、とても洗練された音楽です。「Palo Congo」は、そのルーツをはるかに遡った源流。ソンだけではなく、サンバやブルース等、南北アメリカ大陸の音楽の水源でもあるアフリカとアメリカがぶつかった日の音に近いと思います。
写真出典:hmv.co.jp

マクア渓谷