2020年6月8日月曜日

月の砂漠

もう40年も前のことですが、モロッコのマラケシュを夕方に発ち、カサブランカまでバスで移動しました。ウトウトして目を覚ますと、日はとっぷりと暮れ、砂漠に月が出ています。驚きました。目を疑うほど驚きました。その月がやたら大きいのです。モロッコは月に近いのか、とも思いましたが、「月の砂漠」ってくらいだから、砂漠に月は付き物か、と妙に納得しました。

「月の砂漠」は、画家で詩人の加藤まさをが、大正12年、雑誌「少女倶楽部」の依頼で書いた詩です。後にメロディがつけられ、童謡として広まりました。加藤は、海外渡航経験もなく、想像で書いたようなのですが、その着想を得たのは何処か、という論争が起きます。結核治療のために滞在した御宿か、故郷の藤枝に近い焼津の浜か。いずれも砂漠ではなく、ラクダも王子もお姫様もいません。ましてや大きな月など、何の関係もありません。

それからしばらく経って、湘南のゴルフ場の帰り、クラブバスから、また巨大な月を発見しました。車内は騒然。昔、イランで見たとか、水蒸気のレンズ効果だろうとか、いや地球との角度の問題だろうとか、果ては、明日、株価が暴落する予兆じゃないか、という説まで飛び出し、いい歳のおっさんたちが、まるで小学生のように大はしゃぎ。

科学的説明は、いくつかあります。月の軌道は楕円形。最も地球に近づくタイミングが「スーパー・ムーン」です。直径差は、最大で14%に達します。16年11月、68年ぶりの近さと言われたスーパー・ムーンを見ましたが、マラケシュや湘南の月には及びもつきませんでした。水蒸気レンズ説も確かにあります。ただし、これも多少の差に留まるようです。では、私が見た巨大な月は何なのか。

科学的定説は、なんと目の錯覚。心理学では、これを「月の錯視」、あるいは「天体錯視」と呼ぶそうです。その原因は、アリストテレスも含め、古くから議論されてきましたが、近年の答えは「総合的要因」。要は分からないということです。実際に目にした者としては、錯覚だよと言われても、納得できないものがあります。
                                                                                                               御宿海岸の月の砂漠記念像  出典:travel.co.jp

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