「月の砂漠」は、画家で詩人の加藤まさをが、大正12年、雑誌「少女倶楽部」の依頼で書いた詩です。後にメロディがつけられ、童謡として広まりました。加藤は、海外渡航経験もなく、想像で書いたようなのですが、その着想を得たのは何処か、という論争が起きます。結核治療のために滞在した御宿か、故郷の藤枝に近い焼津の浜か。いずれも砂漠ではなく、ラクダも王子もお姫様もいません。ましてや大きな月など、何の関係もありません。それからしばらく経って、湘南のゴルフ場の帰り、クラブバスから、また巨大な月を発見しました。車内は騒然。昔、イランで見たとか、水蒸気のレンズ効果だろうとか、いや地球との角度の問題だろうとか、果ては、明日、株価が暴落する予兆じゃないか、という説まで飛び出し、いい歳のおっさんたちが、まるで小学生のように大はしゃぎ。
科学的説明は、いくつかあります。月の軌道は楕円形。最も地球に近づくタイミングが「スーパー・ムーン」です。直径差は、最大で14%に達します。16年11月、68年ぶりの近さと言われたスーパー・ムーンを見ましたが、マラケシュや湘南の月には及びもつきませんでした。水蒸気レンズ説も確かにあります。ただし、これも多少の差に留まるようです。では、私が見た巨大な月は何なのか。
科学的定説は、なんと目の錯覚。心理学では、これを「月の錯視」、あるいは「天体錯視」と呼ぶそうです。その原因は、アリストテレスも含め、古くから議論されてきましたが、近年の答えは「総合的要因」。要は分からないということです。実際に目にした者としては、錯覚だよと言われても、納得できないものがあります。
御宿海岸の月の砂漠記念像 出典:travel.co.jp