NYで働いていたころ、仕事仲間の米人たちに「あなたにとって保険営業とは何か?」と、よく聞いていました。単なる興味本位ですが、皆、まじめに答えてくれました。様々な答えがありましたが、一人だけ面白いことを言った人がいます。中堅保険ブローカー会社の社長です。「保険営業とは”Cold Canvas”だ。」コールド・キャンバスとは飛込営業のことです。個人営業から始めたたたき上げの人らしい答えです。私は、よく分かるけど、今は時代が変わったよねと言い、一つの例え話をしました。
江差のニシン漁の話です。昔、春になると江差の浜にはニシンの大群が押し寄せ、船元は、平船を何艘持つか、ヤン衆と呼ばれた出稼労働者を何人雇えるか、日に何度船を出せるかの勝負だった。ある日、ニシンは浜に来なくなり、船元は沖に向かいます。エンジンのついた大型船と熟練の漁師が必要になりました。春のニシン漁だけでは厳しいので、他の魚の生態も勉強し、魚群探知機も必要になった。そして、もっといい方法を思いつきます。養殖です。保険営業の歴史も同じでしょう。

種まき型とは別ですが、かつて保険は集金契約が多く、集金のために必ず訪問するので、契約者の情報は全て掴んでいました。情報は営業の種。適切な提案が、適切なタイミングでできるわけです。これも農耕的です。ただ、集金も無くなり、情報入手が困難となり、保険営業は厳しい時代を迎えました。そこでCSR(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)が登場します。2割の上顧客が8割の売上を生み出すというパレートの法則に基づき、既存顧客をシステマティックに徹底分析し、多件数販売するという方法です。近代農業といったところでしょうか。
さて、話はNYへ戻りますが、私の江差の話を聞いてくれたブローカー会社の社長は、じっと私の目を見て、「それでも営業は"Cold Canvas"なんだよ。」と言いきりました。成功する人たちは違うもんだな、とつくづく思いました。
開始当時のカワイ音楽教室 出典:Kawai.co.jp