2020年6月4日木曜日

包むという非日常

包まれたドイツ国会議事堂   出典:1101,com
環境芸術家クリストが、20年5月末、亡くなりました。10年前に亡くなった妻で共同制作者のジャンヌ・クロードと共に、世界中の建造物や自然を布等で包み込むインスタレーションを展開してきました。私は、実際に見たことはないのですが、好きでした。昔、飲み屋で先輩とクリスト議論になったことを覚えています。「こんなものが、なぜ芸術なんだ」というわけです。

まぁ、底の知れた議論です。面白いと思うかどうかが、ほぼ全てですから。とは言え、たまに登場する議論なので、私はポップ・アートを引き合いに出して話すことにしています。例えば、アンディ・ウォホールのキャンベル缶スープですが、日常的なものを非日常的に提示することで、日常に対する新鮮な視線が生まれます。それを美しいと思う人もいれば、文明批判と受け取る人もいる。受け止めは、人それぞれでいいと思いますが、ただの缶スープでなくなった時点こそ、アートが誕生した瞬間なのでしょう。

米国は、コマーシャリズムが先導する大衆文化の国です。少し古い言い方をすれば、キッチュ大国です。スターン夫妻によるベストセラー「悪趣味百科」など氷山の一角。むしろ、「米国の洗練されたもの百科」の方が、価値が高いかもしれません。キッチュなものの中には、米国の歴史や現状のすべてが詰まっています。それらをシルク・スクリーンで描き、額縁に入れ、非日常性が生まれれば、立派にアートとして成立すると思います。

「悪趣味百科」の後に世阿弥を持ち出すのは、いかがなものかとは思いますが、世阿弥の言う「花」は、現代アートに通じるものがあると思います。世阿弥は、演劇のなかの珍しさや驚きが観客に与える効果を大事にしています。それらを踏まえて「花」は存在するのだと思います。世阿弥の「風姿花伝」は、世界最古の演劇論と言われますが、世界最古の芸術論でもあると思います。

クリスト、ジャンヌ・クロード夫妻が、30年以上前から挑戦し続けていたパリ凱旋門の梱包が、ついに許可されたそうです。残念ながら、クリスト本人はいませんが、インスタレーション自体は、20年9月に実施される予定と聞きました。時間がかかったとはいえ、それを許可したパリ市に敬意を表したいと思います。

マクア渓谷