2020年6月4日木曜日

分断せよ

「分断せよ、しかる後に統治せよ」は政治学の基本と言われます。古くは古代ローマの分断統治、近代では、欧州列国による植民地の支配原則、さらに言えば、昨今のポピュリズム政治家の手法でもあります。日本でも、明治政府による廃藩置県は、一藩一県を避け、複数藩で県を構成し、県内が一致団結し、政府に刃向かうリスクを抑えています。

欧州の植民地支配も同様に、被支配国の国民が一致団結して反抗することを回避する手立てが講じられます。分断した二派が争うように仕向けておけば、支配国への直接的抵抗のリスクは低減できます。さらに少数派を支配層に置けば、必死で多数派を押さえつけに入り、かつ宗主国への依存が決定的となります。第一次大戦後、英仏が中東でとった手法です。例えば、シーア派が多数を占めるイラクには、マッカからスンニー派のハーシム家を連れてきて、王国を建てます。現在に至る中東の混乱は、英仏が作り出したものですが、その統治手法も混乱を生み出す要因となっています。

ポピュリズムの場合、不満を抱える国民に明快な敵を与える手法がとられます。敵が明らかになれば、自派の団結は高まります。天才アドルフ・ヒトラーは、団結を熱狂にまで高めました。ヒトラーは、その都度、上手に敵を作りましたが、最大の敵は、共産主義者とユダヤ人ということになります。国民のあらゆる不満を押し付けました。ヒトラーの才能の本質は、大衆が求めるものを正しく察知し、即座に提供できることだったかも知れません。

トランプは、大統領選挙時、分断手法を取り、成功します。ただ、移民と中国を非難していれば大丈夫とも言えません。本丸は雇用と経済ですが、複雑化した経済構造のもとでは、そう簡単なことではありません。結果的に最もうまくやっているポピュリストは、ブラジルのボルソナロかもしれません。本人の手腕はともかくとして、左派政権をつぶした富裕層がバックにいるからです。コロナ対策はひどいものですが、低所得層を犠牲にしてでも経済を優先したい層の強い支持があります。いつまでも南米諸国を苦しめる貧富の格差は、植民地時代の分断統治の残滓です。分断統治の弊害に苦しめられているのは、中東だけではないわけです。
  ブラジル ボルソナロ大統領   出典:jiji.com

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