そういう映画ですから、恐ろしく差別的であることは当然として、非常に分かりやすく悪の権化は誰かを伝えます。天皇ヒロヒトです。世界征服をたくらむヒロヒトとその手下のショーグンたちは、国民を奴隷化し、そこで稼いだ資金で軍を近代化。さらに、ヒロヒトのために死ねば軍神になると教育し、死を恐れぬ兵士を量産している、といった内容です。完全にマンガの世界です。分かりやすいという意味では、さすがフランク・キャプラとも言えます。
フランク・キャプラは、ヒロヒトの世界征服の野望を象徴する言葉として「八紘一宇」を何度も使います。実に巧妙な手口です。ヒトラー/ナチズム、ヒロヒト/八紘一宇、というわけです。「八紘一宇」の原典は日本書紀。日向から東征した神武天皇は、橿原に都を定めます。その際に発した遷都の詔に「八紘を掩いて宇と為さん」とあります。つまり、すべての人々が入れる一軒の家のような国造りをする、という決意表明です。日蓮宗の田中智学は、大正時代、これを「八紘一宇」と造語し、神武天皇の建国の精神とします。田中は反戦論者であり、「八紘一宇」は世界平和をめざす日本の国体であるとします。
「八紘一宇」が多用される契機となったのは、昭和11年の二・二六事件です。反乱軍の蹶起趣意書に「八紘一宇を完うする国体」という言葉があります。その後、1940年、近衛内閣は大東亜共栄圏構想を打ち出し、八紘一宇を基本概念とします。汎ヨーロッパ主義を範として、欧米による植民地支配に対抗するという趣旨は見事だと思います。ただ、一方で、天皇のもとでの汎アジア主義とも理解でき、日本帝国によるアジア侵攻と植民地化の方便とされました。

宮崎市平和台公園「八紘之基柱」 出典:travel.star