
英国陸軍トマス・エドワード・ロレンス中佐は、アラビアのロレンスとして知られます。1888年、貴族の落とし子として生まれ、オックスフォード大学在学中にはアラビア半島を放浪。卒業後は、考古学に没頭します。陸軍入隊後は地図課に配属され、後に堪能なアラビア語を活かし、外務省直下の情報将校となります。マッカのハーシム家とともに、オスマン・トルコに対するゲリラ戦を展開、アラビア半島の解放を勝ち取りました。
ロレンスは、ハーシム家の三男ファイサルに理想を見て、ハーシム家のもとでのアラブ統一を夢見ます。しかし、部族間の争いは容易いものではなく、さらにロレンスの理想とは異なり、英国・フランス・ロシア等の思惑が交差し、中東は大国の草刈場となりました。今に続く中東の混乱の原因です。理想と現実に引き裂かれたロレンスは、戦いには勝利するものの、複雑な思いをもって戦場を去ります。
戦後、ロレンスは、中東専門家として政府で活躍することも可能でした。しかし、偽名を使ってまで、一兵卒として空軍や陸軍に潜り込みます。兄弟として共に戦ったアラブ人を母国が裏切り、結果、自分はその手先に過ぎなかったという思いが消えることはありませんでした。「知恵の七柱」が、単なる従軍記を超えた歴史的傑作になったのは、その思いがゆえです。1935年、ロレンスはオートバイ事故で亡くなります。享年46歳。アラビア半島で戦ったのは、わずか2年、失意のうちに逝った人と言えるのでしょう。
デヴィット・リーン監督の名作「アラビアのロレンス」でロレンスを演じたのはピーター・オトゥール。ロレンスの性格や心情の陰影までも醸し出す名演でした。ピーター・オトゥールは身長190cmですが、実際のロレンスは165cmのチビでした。そのことが彼の複雑な人格形成に大きな影響を及ぼしたとも言われます。
出典:time AZ