2020年6月25日木曜日

「ロングデイズ・ジャーニー」

2018年中国・フランス    監督:ビー・ガン

☆☆☆☆+

久々に好きなタイプの映像詩を見ました。フェリー二の映像のようでもあり、シャガールの絵のようでもあり、とにかく夜見る夢の世界です。時間も空間も断片的であり、ベールに包まれたような、遠い記憶のような空気感だけが、一定的、持続的に全体を覆う世界。特に後半60分の3Dワンショット映像は、夢の世界が持つ空気感を表現するためのものなのでしょう。映画にしかできない表現のあり方を心得ている監督だと思います。映画史に残る60分かも知れません。音響も実によく計算されており、その見事な構成は一つの詩を形成しています。音楽は、甘い歌謡曲を、夢の世界の象徴のように使いながら、ミャオ族のものと思われる民族音楽が効果的です。

近年、中国映画の傾向として、犯罪者や脱落者を描いた作品、それも結構作家主義的な映画が増えてきたように思います。セリフも少なく、押しつけがましくなく、判断を観客にゆだねるような映画は、近年の世界的傾向でもあります。個人的には、チャイナ・ノワールと呼んでいます。いわゆる第六世代の監督たちですが、ディアオ・イーナン監督の「薄氷の殺人」あたりから、さらに新しい感性の時代に入ったようにも思います。正直なところ、よく検閲を通ったものだとも、よく好きに撮らせたな、とも思います、明らかに中国映画が変わってきたと言えます。

ビー・ガン監督は、北京でも上海でもなく、貴州省のミャオ族の街凱里の出身。一作目の「凱里ブルース」、本作ともに凱里を舞台とし、キャスト・スタッフも地元の人間を多用しているようです。中国の場合、いかに才能豊かでも、地方から、そして少数民族が這い上がることは難しいはずです。経済発展の一方で政治的弾圧を強化してきた中国ですが、政治抜きの文化については、解放が進んできたのかもしれません。あるいは、中国共産党が、政治弾圧強化を糊塗するために進める政策の一環なのかも知れません。ただ、政治的ではない映画など存在しません。意図しようが、しまいが映画は政治的存在です。当局が過敏になれば、検閲強化は免れません。

マクア渓谷