2020年5月9日土曜日

八杯豆腐

韓国映画を見ていると、刑務所から出所した際、豆腐を食べる習慣があるようです。昔、韓国の刑務所では、豆飯が主食であり、入獄することを「豆を食う」と言ったそうです。豆に戻らないという意味で豆腐、そして真っ白な気持ちでやり直す、という意味で、出所時、豆腐を食べるようになったそうです。豆腐に関しては、日本にも、こんな言葉があります。「世渡りの道はどうかと豆腐に問えば、まめで四角で柔らかく。」

江戸期の倹約料理番付では、煮豆や金平ごぼうを抑えて、「八杯豆腐」が一番です。水六杯、酒一杯、醤油一杯で豆腐を煮て、大根おろしをかけて食べるという代物。水・酒・醤油が、合計八杯なわけです。時代とともに、東京では消えていった料理ですが、日本各地では、様々な形で、いまだ健在です。だし汁を使うこと以外は、江戸期と同じですが、各地では、豆腐を千六本に切る、すり下ろした山芋を乗せる、生姜を効かせる、キノコを入れる、等のバリエーションがあります。ただ、家庭料理というよりは、伝統料理、つまり昔の味という位置づけが多いようです。

同じように、昔の味、という扱いになっている豆腐料理に味噌田楽があります。これも全国各地にありますが、例えば豊橋市の旧東海道沿い「きく宗」では、200年このかた、菜飯田楽一筋。大根菜のまぜご飯に味噌田楽のセットですが、あまりにも素朴な味に、多少物足りなさを感じます。ただ、この味噌田楽には、なかなか優秀な子孫が誕生します。「おでん」です。江戸期、焼いて作る味噌田楽より手軽な「煮込み田楽」が登場します。煮込んで味噌を塗って食べるわけですが、それが出汁を効かせて、豆腐以外も煮込むようになり、今のおでんになります。ちなみに「おでん」とは田楽の女房言葉だそうです。

近年、豆腐料理の人気一番は圧倒的に「麻婆豆腐」。これは、もう丸美屋のおかげにつきます。71年に発売された「麻婆豆腐の素」は、年間4千6万個を売る国民的大ヒット商品。日本に陳麻婆豆腐を紹介したのは赤坂四川飯店の陳建民。同じ麻婆豆腐とは言え、四川飯店と丸美屋ではほぼ別物。山椒のしびれ、唐辛子の辛さを極端に抑えた丸美屋のそれは、いわば和風麻婆豆腐。それがヒットの理由ですが、気になるのは、多くの中華料理店の麻婆豆腐が、丸美屋にすり寄っていることです。
                               オーセンティックな八杯豆腐   出典:apool-m.com




マクア渓谷