Covid19のパンデミックは、世界中の宗教活動にも大きな影響を与えています。集団礼拝が感染を拡大させる傾向がある一方、宗教団体側としては、神が与えた試練ゆえ、皆で祈ろう、ということになります。日常的礼拝だけでなく宗教行事も影響を受けています。ムスリムは、マッカ巡礼(ハッジ)が自粛となり、断食月(ラマダン)が各国の外出規制のなかで始まりました。
ラマダンとは、ヒジュラ暦第9の月という意味です。最も神聖な月とされ、アッラーフへの信仰を新たにし、慈悲や平等への思いを深めるために、断食します。日の出から日の入りまで断食し、夜はデーツから始まる食事を家族で取ります。その起源は、聖遷(ヒジュラ)の追体験とも、バドルの戦いの勝利を神に感謝するためとも言われます。
マッカの商人ムハンマドは、610年、大天使ガブリエルから唯一神(アッラーフ)の啓示を受け、預言者となります。布教を開始したムハンマドは、多神教の街マッカで迫害を受け、マディーナへと拠点を移します。これが聖遷(ヒジュラ)であり、ヒジュラ暦元年となります。マディーナで信者の共同体(ウンマ)を強化したムハンマドは、バドルの泉でマッカ軍と戦います。圧倒的に不利な状況下、ムハンマドはマッカ軍を破ります。ムハンマドは、この勝利を神に感謝し、この月を最も神聖な月と定め、断食を行いました。

神への感謝が、なぜ断食なのか、不思議に思っていました。断食は、旧約、新約聖書にも登場するなど、古くから世界中で行われてきた宗教的行動のようです。いわば修行の一形態だと理解できます。ただ、ムハンマドは、断食に新たな要素を加えます。ウンマの団結です。同時期に、皆平等に断食し、共に祈り、喜捨(ザカート)をし、日没後、家族で食事する。16億人が、これを同時に行うわけです。大いに帰属意識は高まります。ここがムハンマドの独創性であり、今に至るムスリムの団結につながっています。日本の祭りは、ハレとケで説明されますが、コミュニティの団結強化という側面もあります。企業においても、同じことが言えます。企業にも、祭りが必要なのです。
マッカのカアバ神殿 出典:AFPBB