2020年5月21日木曜日

ノルディック・ノワール

刑事小説のパターンは、一途さと優しさを併せ持つ主人公、それゆえに崩壊した家庭、理解者としての相棒、心を交わせる社会的落伍者、そして舞台となる陰ある街、といったところ。なかでも魅力的な舞台設定さえできれば、5割方は成功だと思います。ノルディック・ノワールと呼ばれるようになった北欧ものは、幸福度の高い国々の暗い部分を、ドライに、リアルに描いて成功しています。その独特で陰鬱なテイストは、正直、ハマります。

小説では、いまや古典となったマイ・シューヴァルとペール・ヴァールー夫妻による「マルティン・ベック・シリーズ」が先陣を切りました。以降、へニング・マンケルの「カート・ウォランダー・シリーズ」、スティーグ・ラーソンの「ミレニアム・シリーズ」等が代表作となります。それらは、映画化、TVドラマ化され、広く知られるところとなりました。マルティン・ベック・シリーズの「マシンガン・パニック」、ミレニアム・シリーズの「ドラゴン・タトゥーの女」等は大ヒットした映画です。

ノルディック・ノワールを世に知らしめた立役者は、TVドラマだと思います。キリング、ブリッジ、ボーダータウン、トラップ、ウォランダー等が代表作です。なかでも「ブリッジ」は衝撃的でした。ドラマは、スウェーデンとデンマークを結ぶ橋の真ん中に横たわる女性の切断死体からスタートします。アスペルガー症候群の女性刑事サーガ・ノーレンは、ノルディック・キャラの代表ともいえます。強烈な印象を残しました。ブリッジは、舞台をフランス・イギリス、アメリカ・メキシコ等々に移し、リメイクされています。サーガのユニークなキャラクターは継承されていましたが、北欧の暗さを背負っていないせいか、やや分かりにくくなっていました。

寒々しく荒涼とした景色や街並み、モダンながら殺風景な家、少なめでぶっきらぼうな台詞、表情の薄い人々、ドライでグロテスクなシーン。北欧の心象風景そのものなのでしょう。ちなみに、ノルディック・ノワールは、他の欧州北部の国々にも波及しています。なかでも、全編ウェールズ語という「ヒンターランド」は傑作でした。
                                                                The Bridge の刑事サーガ・ノーレン(ソフィア・ヘリーン)  出典:Super Drama TV

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