イタリアが統一されてから、まだ160年。各地方は、お互いによく言わない傾向があります。例えば、北イタリア人は、南イタリアは別の国だと切り捨てますし、ローマをバカにしますし、トスカーナを嫌っています。歴史的事実なのでしょうが、我々とは人種が違う、と言い切ります。いまだに、トスカーナ人はエトルリア人だからね、と言うわけです。エトルリアがローマと同化したのは、2500年以上前のことですけどね。
独自の文化・言語を持つエトルリアが、半島中部に繁栄したのは紀元前8世紀以降。12の都市の緩やかな連合体だったようです。王政ローマ最後の3人の王はエトルリア人。世界を征した古代ローマも、当初は、はるかに先進的なエトルリアの影響下にあったわけです。トスカーナは「エトルリア人の土地」、ティレニア海は「エトルリアの海」という意味だそうです。そのエトルリアで、古代から飼育されてきたのがキアナ牛。白くて巨大なキアナ牛は、世界中の牛の起源だとも言われます。
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出典:Atpress |
フィレンツェの名物料理と言えば、ビスティッカ・アラ・フィオレンティーナということになります。希少なキアナ牛を炭火で焼き上げます。味付けは、塩・胡椒・オリーブオイルだけ。外はカリカリ、内はジューシーという焼き方も見事ながら、何といってもキアナ牛の風味の良さ、味わいの深さが最大の魅力です。圧倒的な高たんぱく、低コレステロールが、独特の風味を作っているようです。キアナ牛の肉のうま味の強さに比べれば、他の牛は脂の味しかしないようにも思えます。知る限りにおいて、キアナ牛のビスティッカは、ベスト・オブ・ステーキです。
数年前から、日本でもキアナ牛が食べられるようになりました。広尾のラ・ビスボッチァで試しましたが、やはりうま味の強さは抜群。ただ、とてもお高い。それに、ビスボッチャと言えども焼き方がビスティッカというわけにはいきません。フィレンツェの焼き方にかなり近いと思ったのは、青山、渋谷から広尾へと越した「トゥリオ」です。キアナ牛を指定して、食べてみたいものです。とても高価でしょうが、フィレンツェへ行くよりは安上がりのはずですから。