かつて、ホノルルのマノア・ロード沿いに、草葺きの掘立小屋が展示されていました。ロバート・ルイス・スティーブンソンが半年暮らした小屋を復元したものでした。スティーブンソンは、スコットランド出身。稀代のストーリー・テラーとして、多くの小説を書いています。代表作は、「宝島」、「ジキル博士とハイド氏」。晩年、サモアへ移住し、そこで生涯を閉じます。サモアへの途上、ハワイで半年過ごしました。「宝島」は、ハワイかサモアで書いた作品と思いきや、イングランド南部のボーンマスで書かれています。

私は、あまり同じ本を読み返しませんが、おそらく最も多く読み返した本は「宝島」だと思います。小学生の頃のことですが、絵も随分描きました。「宝島」は、児童向け海洋冒険小説の傑作ですが、実は「海賊もの」というジャンルの草分けでもあります。物語は、港町ブリストルから始まります。宿屋の息子ジム、刀傷の男、その不審な死、残された宝島の地図、そしてロング・ジョン・シルバー。居酒屋「遠眼鏡亭」の訳アリ亭主。片足は義足、肩にはオウム。ありえない風体ですが、今に続く海賊ものの定番キャラクターです。
「宝島」は、1883年に出版されています。海賊と言えば、古今東西、枚挙に暇がありませんが、「宝島」のモデルは、カリブ海の英国公認の私掠船バッカニアーだと思われます。17世紀後半から18世紀初頭、「黒ひげ」ことエドワード・ティーチ、ジョン・ラカムらが、髑髏旗(ジョリー・ロジャー)を掲げて大暴れしました。イギリスは、海軍力の不足を補うために、私掠船を利用して、スペイン船を攻撃させました。ただ、カリブ海周辺での植民地経営が本格化し、常備軍の整備が進むと、海賊たちは邪魔者となり、海軍によって駆逐されていきます。
また、宝探しのモティーフは、キャプテン・キッドの財宝探しに由来します。キッドは、1700年に、逮捕、処刑されていますが、ほどなくロング・アイランドで財宝が発見されます。ただ、少額であったことから、今でも探している人たちがいます。トカラ列島の宝島も、候補地の一つとして有名です。
ジム少年とジョン・シルバー 出典:flicker