2020年5月17日日曜日

クロスロード

絵画や音楽の世界では、しばしば天才が現れ、パラダイムシフトを起こします。初期のブルース界に現れた天才の一人は、ロバート・ジョンソンでした。米国南部で、労働歌や教会音楽のなかから生まれたブルースは、1903年、W.C.ハンディが採譜したことで世に知られ、20年には、初めてレコードが発売されます。デルタ・ブルースはギターの弾き語りで演奏されますが、30年頃、ロバート・ジョンソンが、突然、歌とギターを異次元へとワープさせます。

ブルース・シンガーのサン・ハウスが、ミシシッピの田舎町で歌っていると、休憩時間に弾かせてくれという若者が現れます。聞くに堪えない演奏で、客が怒ったと言います。サン・ハウスは、お前にブルースは無理だ、止めちまえ、と言って追い出します。2年後、再び若者が現れます。休憩時間に弾かせてくれ、まだ懲りないのか、というやり取りの後、若者が演奏し始めます。ものの数秒で、そこにいた全員が言葉を失ったと言います。まさに聞いたこともないレベルの歌とギターだったわけです。

ロバート・ジョンソンには、常にクロスロードの噂が付きまといます。奴が、短期間であんなに上達できたのは、クラークスデールの十字路で、悪魔に魂を売り、替わりにギターの腕前を手に入れたからだ。そんな噂がまことしやかに広がるほど、驚異的、革新的演奏だったわけです。ロバート・ジョンソンは、各地を放浪しながら、演奏を続けます。ただ、当時のデルタ・ブルースを取り巻く差別的環境等からして、今に残る録音は、わずか29曲と12の別テイクのみ。写真ですら、数枚が発見されただけです。

あの世、という概念は古代エジプトまでさかのぼります。おそらくもっと昔からあったのでしょう。霊界への入り口、あるいは霊界と現世の境、と言われる場所も、世界中にあります。パターンとしては、洞窟、火山の岩場等が典型ですが、十字路も西アフリカ当たりでは人気があるようです。霊界と現世が交差する、ということなのでしょう。十字路で魂を売ったロバート・ジョンソンは、悪魔との約束どおり、若くしてこの世を去ります。浮気相手の旦那に毒をもられる、という、いたって俗っぽい死因ではありますが。

「27クラブ」とは、27歳で命を落としたミュージシャンたちのこと。確かに多いのです。ブライアン・ジョーンズ、ジミ・ヘンドリックス、ジャニス・ジョプリン、ジム・モリソン、カート・コバーン等々。そして、列の先頭にはロバート・ジョンソンがいます。
                                                                                                                         ロバート・ジョンソン   出典:Amazon


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