2020年5月1日金曜日

メンフィス・サウンド

かつてニューヨークは「人種のるつぼ」と呼ばれましたが、まるで溶け合っていないので、近年は「人種のサラダボウル」と言われます。本当のメルティング・ポットに近い街もあります。その一つがテネシー州メンフィスだと思います。

メンフィスを舞台としたHBOシリーズ「クオーリー」(2016)にハマりました。70年代、メンフィスと聞いただけで、傑作間違いなし。マックス・アラン・コリンズ初期の小説が原作。アメリカの矛盾を詰め込んだ脚本、抑えた演出、渋めの俳優もいいのですが、時代を感じさせる空気感がとても良い。そして、何よりもメンフィス・サウンドをキッチリ絡めている点がうれしい。オーティス・レディングのアルバム「オーティス・ブルー」に至っては、プロットの一つにさえなっています。

メンフィスは音楽の街です。同じテネシー州ナッシュビルは、カントリーのメッカ。対してメンフィスは、ブルーズ、R&B、カントリー、ロックンロールの街です。ゆかりのミュージシャンを挙げれば、キリがありません。ロバート・ジョンソン、W.C.ハンディ、マディ・ウォーターズ、オーティス・レディング、BBキング、アイザック・ヘイズ、そしてエルヴィス・プレスリー。メンフィスがメルティング・ポットである明らかな証拠は、プレスリーとサザン・ソウルにあります。

幼少期のプレスリーは、黒人街で育ちます。プレスリーの体のなかで、カントリーとR&Bが自然に融合し、ロックンロールが生まれます。サザン・ソウルは、ノリが良く、田舎くさく、ちょっと白っぽいところが特徴です。サザン・ソウルの本拠地スタックス・レーベルの専属バックバンドは、ブッカーT&MG’S。ギターのスティーブ・クロッパー、ベースのドナルド・ダック・ダンは白人。オーティスの名曲「ドック・オブ・ザ・ベイ」は、オーティスとスティーブ・クロッパーの共作です。異なる文化が出会う時、新しい文化が生まれます。メンフィスが、メルティング・ポットたり得た理由は、黒人人口が6割を超えていたからです。逆だったとしたら、何も生まれなかったはずです。

2012年、スティーブ・クロッパーとドナルド・ダック・ダンの来日ライブに行きました。歳も歳だから、これが聞き納めかもよ、と友人たちを誘い、でかけました。Time is Tight、Green Onionといった懐かしい曲で大盛り上がり。そのライブから2日後、都内のホテルで、ドナルド・ダック・ダンは亡くなりました。
                                                                                                                   オーティス・レディング   写真出典:amass

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