2020年4月26日日曜日

営業昔話(3)ヒット商品

昔々、小さな文房具のセットが売れたとさ。

80年代の半ば、中堅文具メーカーP社が、考えられないほどの大ヒットを飛ばします。サイズを小さくした文具をセットにしたもので、決して安くはありませんでした。小さいとは言え品質は高く、実際に文具として使えました。ただ、実用性で売れたのではなく、物珍しさで大ヒット。ブームの特徴で、持っていること自体がカッコ良かったわけで、瞬く間に入手困難となり、ブームは一層加熱しました。

当時、P社のアメリカ法人の社長は、日本にいるとき、営業を統括していた方でした。ニュー・ジャージーのオフィスを訪問し、初めてお会いした際、「大ヒット、おめでとうございます」と申しあげたところ、「何がめでたいんだ。あのヒットでうちはつぶれるよ。」と言うのです。うちは、下町の小さな文具屋だよ。営業の連中は、暑い日も寒い日も、照った日も降った日も、日がな一日、問屋回りをして、商品を少しでも扱ってもらうよう、ペコペコ頭を下げていたんだ。毎日、その繰り返しよ。でも、それではじめて会社が回っていたんだ。

ところが、今度の大ヒットだよ。品薄で、問屋の方から会社へ来て、一つ二つでもいいから回してくれ、と頼むわけだ。営業担当者は、横柄な態度で、いま在庫はないんだよね、てなもんだよ。外回りすることもなくなり、クーラーの効いた部屋で、机に脚をのせて、電話応対しているだけ。会社、つぶれるよ。こんなことしてたら、ホントに会社つぶれるよ。いいかい、覚えておきな「ヒット商品は営業を殺すんだよ。」

鳥肌がたちました。名言中の名言。後に、勤めていた会社がヒットを飛ばした時、私は、皆にこの話をして、引き締めをはかりました。ちなみに、その会社はつぶれませんでした。それどころか、企業向けに文具のデリバリ・サービスをはじめ、大成功しています。アメリカでは一般的なサービスでしたから、あの人が、帰国後、始めた商売だな、と思いました。
出典:GetNavi

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