2020年4月17日金曜日

人生は祭りだ!

映画ファンに、一番好きな映画を聞くことは、拷問です。一本に絞ることなど不可能だからです。ただ、私に限って言えば、すぐに答えることができます。なぜなら、かつて、それだけをじっくり考える機会があったからです。30年前、仕事でアメリカ中西部をぐるぐる回っていたことがあります。コーン畑のなかの対向車を見るのも希な道を、一人でひたすら走りました。他にすることもないので、毎日、ベスト・ムービーを考え続けたわけです。

私のベスト・ムービーは、フェデリコ・フェリーニ監督の「81/2」です。奇妙なタイトルですが、フェリーニにとっては9作目の映画。ただ、1作目が共同監督作品だったため、1/2というわけです。随分、適当なタイトルの付け方のようですが、主人公グイドは映画監督であり、まさに自伝的、あるいは私小説的な映画だったわけです。初期のネオリアリズモから大きく作風が変わった「甘い生活」も素晴らしい映画でした。美しい映像、幻想的なシーン。退廃的と批判されたそうですが、退廃は欧州文化、就中イタリア文化そのものだと思います。「81/2」は、「甘い生活」の次作であり、映画的に一層純化されていると思います。

初めてローマに行ったときには、ヴェネト通りのカフェ・ド・パリに行き、「甘い生活」を実感しました。次にローマに行ったときには、ポポロ広場のカフェ・カノーヴァで、フェリーニお気に入りの席から、行き交う人々を眺めました。人生なんて、理不尽で、不可解で、不愉快なことばかり。でも、ささやかな希望や慰めもないわけではない。それって、どうしようもなく馬鹿だけど、愛おしくもある人間たちとのつながりなのかも。釈迦は、諸行無常、諸法無我、一切皆苦、と言いました。フェリーニも同じです。ただ、釈迦は八正道の実践で涅槃に至るとし、フェリーニは、人との連帯のなかに救いがあると言うわけです。グイドの場合には、連帯するために自殺せざるを得ませんでしたが。「人生は、そう簡単なものでもないさ」フェリーニが、目をギョロリとさせながら、言っているようにも思えます。


映画史上、最も有名なラストにつながる「人生は祭りだ。さあ、一緒に楽しもう!」は、映画史上、最も有名な台詞かも知れません。祝フェリーニ生誕100年。

8 1/2 のラスト・シーン     出典:Note


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