2026年5月6日水曜日

明鏡止水

明鏡止水とは、 荘子の言葉に由来し、なんのわだかまりもなく、澄みきって静かな心の状態を指すとされます。無心の境地とも言えるのでしょうが、さらに意識を集中し、冷静さのレベルを高めた状態のように思います。NHKの番組「明鏡止水〜武のKAMIWAZA〜」は、日本古来の武術を中心に、フルコンタクト・スポーツにおける体の使い方を解明しようとする番組です。レギュラー放送ではありませんが、楽しみにしている番組です。タイトルも見事だと思います。単に武術を紹介するのではなく、その原理原則を解き明かす番組としては、実に相応しいと思います。心技体の語順は、単なるゴロの良さではなく、意味のある並びなのだと思います。

番組のホストを務めるのは、岡田准一とケンコバです。番組内で、岡田准一は”武術翻訳家”と呼ばれています。アイドル・グループの出身ですが、俳優としての活躍が多く、かつ武術家としても知られる異色の人です。各種格闘技の修行を行い、ブラジリアン柔術の世界大会に参加したこともあるというツワモノです。吉本興業所属の芸人ケンドー・コバヤシは、空手経験があり、大のプロレス・ファンとしても知られているようです。二人とも、フルコンタクト系に造詣が深いわけです。番組には、あまり知られていない古武術や格闘技の大家がゲスト参加し、演武を行い、解説を加えます。決して古武術に固執せず、プロレス、現代格闘技、あるいは他のスポーツや漫画の世界にまで範囲を広げて、心技体の関係を極めようとする姿勢が素晴らしいと思います。

番組から、武術やフルコンタクト・スポーツに共通する要素が見えてきます。重心、崩し、脱力、円運動、相手の力の利用などが印象に残りました。例えば、重心ですが、丹田(へそのやや下)に力を入れて、膝をやや曲げて直立する姿勢が最も安定感が高く、ちょっとやそっとの力では動かせないと言います。相撲で言えば、この姿勢のままでは、押すことも、投げることもできないとされます。そこで、崩し、つまり相手の重心をずらすことが必要となります。左右へいなす、上向きに力を加える、踏み込みを誘うなどして、相手のバランスを崩していきます。がっぷり四つの状態から上手投げを打っても決まらないと言われますが、相手を押し、相手が反撥して押してくる力を利用することで、技が決まります。つまり、相手の重心のバランスを崩しているわけです。

フルコンタクト・スポーツに筋力は欠かせません。しかし、筋肉量が勝敗を決めるわけではありません。柔よく剛を制す、というわけです。スピード、タイミングといった要素が勝負を決めます。また、筋肉に頼る、つまり体に力が入りすぎていると、合理的な早い動きはできません。力を抜くことが大事になります。また、重心を保つうえでは体幹が重要となり、そのためにインナー・マッスルを鍛える必要があるようです。フルコンタクト・スポーツは合理的な世界ですが、対戦中に考えて動くことなどできません。日頃からの稽古によって、体に覚えさせるしかありません。古武術の型、あるいは相撲の日々の稽古などによって、体に基本をたたき込みます。横綱、大関でも、場所前に十分な稽古ができていないと、本割で思うような結果を残すことは出来ません。

今村翔吾のベストセラー「イクサガミ」をNetflixがミニ・シリーズ化し、岡田准一が、主演、プロデューサー、アクション・デザイナーを務めています。ストーリー展開はともかくとしても、アクション・シーン、特に岡田准一のチャンバラが、惚れ惚れするほどリアルで見事な仕上がりになっています。他の役者ならば、見栄え重視のチャンバラになるのでしょうが、さすが武術家の刀さばきは、理に適ったものになっています。「Shogun」の真田広之の後継者は、この人しかいないのではないかと思います。ちなみに、「イクサガミ」は、Netflixの週間グローバルTOP10(非英語シリーズ)で第1位を獲得し、Rotten Tomatoesでも評価100%を得ています。シーズン2の製作も決定しているようです。(写真出典:tvguide.or.jp)

明鏡止水