2025年4月7日月曜日

難読地名

関西に行くと、難読地名の多さに驚かされます。よく例として取り上げられるものとして、太秦(うずまさ)、放出(はんてん)、柴島(くにじま)、十三(じゅうそう)、杭全(くまた)、京終(きょうばて)、御所(ごぜ)等々がありますが、ごくごく一部に過ぎません。歴史の古さゆえ、大昔の読み方がそのまま残ているということなのでしょう。印象としては、京都よりも、大阪や奈良の方が、難読度が高いように思います。大阪や奈良のローカル線に乗っていると、難読駅名のオンパレードです。考えてみると、平安京よりも平城京、平城京よりも難波宮の方が古いわけですから、当然の結果なのかもしれません。

当然のことながら、地名には由来があります。関西の場合には、ストーリーのある由来が多いように思います。例えば、放出は、7世紀、天智天皇の頃、道行という僧が、三種の神器の一つである草薙の剣を盗み出し、新羅に逃げようとします。ところが、突然の荒天で道に迷った道行は放出あたりにたどり着きます。祟りを恐れた道行は、ここで草薙の剣を放り出したので、以降、この地は放出と呼ばれるようになったというのです。日本書紀にも記載される事件ですが、道に迷ったのではなく、船が難破したというヴァージョンもあるようです。ちなみに、草薙の剣は、名古屋の熱田神宮に安置されていますが、これは天智天皇が重い病に冒されたおり、草薙の剣の祟りを恐れ、手元から熱田神宮に移したからだとされています。

過日、堺へ行った際、友人が、中百舌鳥(なかもず)は有名だけど、上百舌鳥や外百舌鳥はないのだろうか、という疑問を呈していました。実は、中百舌鳥以外の地名はありません。地名の由来は、4世紀の仁徳天皇にまでさかのぼります。仁徳天皇が、このあたりで狩猟をした際、鹿がふらふらと出てきて、バタリと倒れます。不思議に思って調べてみると、耳から飛び込んだ百舌鳥が脳みそを食い荒らしていました。よって、この地を中百舌鳥と呼ぶようになったというのです。百舌鳥は、それほど小さな鳥ではありませんから、思いっきり眉唾ものの話です。近いことが起きたとすれば、偶然、百舌鳥が鹿の口に飛び込み、鹿が窒息死したのではないかと思います。いわゆるバード・ストライク事故です。

関西に次いで難読地名が多いのが北海道だと思います。最も難しい地名として知られるのは釧路の「重蘭窮」です。”ちぷらんけうし”と読みます。北海道の難読地名の由来は、実に明快です。アイヌの人々が呼んでいた地名に、無理やり漢字をあてたからです。カタカナのままでもよかったと思うのですが、幕末、明治初期なら、やはり漢字以外ありえなかったのでしょう。なお、重蘭窮はアイヌ語で”船を見下ろす場所”を意味します。ちなみに札幌は、アイヌ語で”サッ・ポロ(乾いた広いところ)”、あるいは”サリ・ポロ・ペッ(大きな湿地のあるところ)”だと聞きます。私のお気に入りの難読地名は札幌郊外の「花畔」です。”ばんなぐろ”と読みます。アイヌ語の”パナ・ウングル・ヤソッケ(川下人の漁場)”に由来するそうです。

かつて北海道は、松前藩を除き、蝦夷地、つまりアイヌの土地として、国の外でした。幕末に至り、ロシアに対する国防上の観点から日本国に組み込まれます。探検や入植が進むにつれ、地名として新たな和名をあてることもできたはずです。例えば、広島県の人々が入植した地は北広島と名付けられています。ところが、アイヌの言葉が優先されています。アイヌへの敬意だったのか、便宜上の問題だったのかは分かりません。北海道と同様に新天地だったアメリカの場合、オランダから島を奪取したヨーク公にちなんでニュー・ヨークと名付けるといった例もありますが、シカゴは先住民の”偉大な”あるいネギが繁殖する”臭い所”という言葉に由来するとされます。実は、アメリカ50州の半数以上が、先住民の言葉に由来する地名だと聞きます。表音文字の世界に難読地名という問題は存在しませんが、発音しにくい地名は存在します。(写真出典:news.yahoo.co.jp)

マクア渓谷