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池山水源 |
毎分30tの水が湧き出すという池山水源は、のどかな山村である産山村の奥まった森のなかにあります。池一面の水草と穏やかな水面に映り込んだ森の緑が相まって、深遠な光景を生んでいます。ただ、水の透明度が高すぎるために、スマホのカメラで水草を撮っても、ただの草むらのようにしか写りません。友人は、10Lのポリタンクを持ち込み、水源の水を汲んでいました。この水で入れるコーヒーが絶品とのこと。私も、500mlのペットボトルに名水を汲んで持ち帰りました。翌朝、早速にコーヒーを入れてみましたが、さほどの違いは感じませんでした。トリエステのillyの豆で入れたのですが、恐らく、硬水を前提とした欧州の深煎りの豆では池山水源の軟水の魅力は活きないということなのでしょう。
今回の旅で、念願だった高千穂にも行くことができました。宮崎県の高千穂は、天孫降臨の地として知られます。他にも天孫降臨の地としては霧島連山の高千穂峰が有名ですが、同じ宮崎県にあります。高千穂で最も人気のあるスポットと言えば、柱状節理が美しい高千穂峡です。高千穂は、阿蘇山南東の裾野に位置しますが、やはり多くの滝や湧水で知られます。今回、高千穂の名物が流しそうめんだということを初めて知りました。流しそうめんと言えば、指宿の唐船峡が有名です。巨大な施設で、丸い流しそうめん器を多くの人々が囲む姿は異様です。機械でやるなら、家でやればいいように思います。ところが、唐船峡の美味しい水こそが重要なのだそうです。高千穂の流しそうめんも、素麺を食べて、阿蘇の美味しい湧水を味わう、ということなのでしょう。
「名水百選」は、水質・水量、景観、保全状況、保全活動を必須として、規模、故事来歴、希少性等を勘案し、選定されています。水質オンリーというわけではありません。美味しさとミネラル分の含有量が直結していないということでもあるのでしょう。日本は、水道水も含めて、軟水が大層を占める国です。軟水は、ミネラル分の含有率が60mg/L以下と定義されます。欧州に硬水が多く日本は軟水が主である理由は、欧州の山地は石灰岩、日本は花崗岩が多いことによるのだそうです。加えて、日本は勾配の急な山が多く、ミネラル分の混入が少なくなるのだそうです。いずれにしても、日本の農作物、農加工品、料理、すべてが軟水を使っているわけで、日本の食文化は軟水を前提として成り立っていると言えます。
さる大手ケミカル会社の会長が、獺祭の旭酒造が純水を使って仕込んだ日本酒を持っているというので、一緒に飲みましょうよとお願いしました。ところが、うまいわけがないから飲まないと断られました。逆浸透膜や蒸留装置を使って生成される純水は、ミネラル分を一切含まない純粋なH₂Oです。ある意味、純水は、軟水の極致とも言えます。ただ、会長によれば、酒の旨味は雑味から生まれるとのこと。雑味のない純水から美味い酒などできるわけがないというわけです。人間と同じですね、と会長に申しあげたところ、うまいことを言うねェ、とほめられました。阿蘇の名水も、単にミネラル分の少ない軟水というだけでなく、雑味の入り方が絶妙な水ということなのでしょう。(写真出典:welcomekyushu.jp)