監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2024年アメリカ
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実に見事な映像、音響、音楽でした。ただ、ドラマ的に見れば、やや表面的になった面があります。とは言え、SFの頂点に立つ「デューン」は壮大すぎて映像化不可能と言われていたこと、そして幾たびも映像化に失敗していることを考えれば、十分以上の出来だと思えます。全てとは言いませんが、デューンの深遠な世界が伝わる翻案だと思います。やはり、「デューン」の完全な映像化は困難、と言えるのかも知れません。今回、ドゥニ・ヴィルヌーヴが映画化したのは、フランク・ハーバートのデューン・シリーズ全6巻のうち、1965年に発刊された第1作です。まともに映画化するなら、恐らく5倍くらいの尺が必要になるのでしょう。TVシリーズ向きとも言えますが、TVの予算では再現不可能な壮大さだと思います。2021年にPART1が公開された時には、ドゥニ・ヴィルヌーヴのチャレンジは半ば成功しつつあると思いました。というのも、見事な映像化ながら、あくまでも前半部分だけというフラストレーションがありました。PART1で最大の懸念事項は、そのヒットがPART2製作の条件とされたことです。ヒットしなければ、PART1は、デューンは映画化困難という歴史に新たなページを加えることになっていたはずです。映画化への最初の挑戦は、1975年、アレハンドロ・ホドロフスキーによる壮大な計画でしたが、配給元が決まらず頓挫。その経緯は、ドキュメンタリー映画にもなります。その後もTVシリーズは別として、映画の企画は頓挫を続け、初めて映画化されたのは1984年のデビッド・リンチ作品でした。ただ、結果は映画史に残るほどの悲惨なものでした。
デビッド・リンチ作品は、不幸にも予算面を中心とするプロダクション・サイドとの軋轢、そして技術的な限界がありました。この40年における技術的進化は大きく、かつ本作のテクニカル・チームは、PART1でアカデミー賞も多数獲得した凄腕揃いです。また、映画館の映写技術も音響装置も格段に進歩しています。キャストで言えば、ドラマ的展開に限界があるなか、ティモシー・シャラメの苦悩や複雑さを伝える演技は上出来だと思います。風変わりな子役だと思っていたゼンデイヤが、本作には欠かせないほどの存在感を見せています。一番驚いたのが、皇帝役でクリストファー・ウォーケンが登場したことです。個人的には大ファンですが、彼が画面に登場した瞬間、映画は実に映画らしくなると思っています。
時間的制約もあって、ドラマとしての深掘りができなかったことに関して、もったいないと思ったことがあります。ポールとハルコネン家との関係です。ポールの選ばれし者としての苦悩の描き方も、やや薄いところがありました。ただ、ポールの複雑な性格に関しては、もう少し丁寧に描写すると映画の奥深さが増したのではないかと思えます。そのために活用すべきだったのは、ポールとハルコネン家との血縁関係だと思います。スター・ウォーズは、ルークとダースベイダーとの関係を中心とするスカイウォーカー家の物語であることが、映画に普遍性と深みを与えています。神話ベースの物語であるスター・ウォーズと、人類が直面する苦悩を哲学的に描くデューンでは、アプローチに大きな違いがあるわけですが、ポールとハルコネン家の関係というモティーフは、ドラマにとって極めて重要な要素だったと思います。
かつて「ゲーム・オブ・スローンズ」(2011~2019)にハマり、毎年、新シーズンを心待ちにしていました。原作の良さもありますが、細部にこだわった徹底的な作り込みにも感服しました。最も驚いたことの一つが、シリーズのために創作されたドスラク語・高地ヴァリリア語等の言語です。作ったのは、プロの言語制作者であるデヴィッド・ピーターソンという人です。本作でも、彼がこの映画のために作ったチャコブサ語が頻繁に使われています。役者たちは、徹底的に覚え込まされたようです。単語だけ創作するのであれば、楽なものです。しかし、体系的な言語として成立させるとなれば、その労苦は並大抵のものではないと思います。監督はじめ制作陣は、既にシリーズ3作目の準備に入っているようです。原作の第2巻がベースになるようですので、引き続きチャコブサ語も活用されるはずです。(写真出典:warnerbros.co.jp)