監督: ジョセフ・コシンスキー 2022年アメリカ
☆☆☆+
36年振りの続編とは驚きです。1986年の「トップガン」は大ヒット映画でした。主題歌も大ヒットし、トム・クルーズやメグ・ライアンはスターの地位を獲得しました。国威発揚のイメージ・フィルムとしては上出来であり、実際、軍への志願者が大幅に増えたとも聞きます。トム・クルーズは、安易な続編が制作されることを恐れ、映画化権を買い取ります。それが、続編制作に36年かかった主な理由のようです。しかし、前作は、結構、退屈な映画でした。恐らく続編も退屈だろうと思い、見る気にはなれませんでした。ところが、やたら評判が良く、見てみようと思った次第です。驚きました。面白い映画でした。前作をはるかに超えています。国威発揚のイメージ・フィルムというフレームは変わっていませんが、その色が薄れ、テンポの良いスリリングなエンターテイメントに仕上がっています。米国海軍が全面協力した映像は、前回と同じく迫力のあるものでした。加えて、今回はCGという新たな武器が加わり、スピードも、スケールもアップしています。前作の主役はF-14戦闘機でしたが、今回はF-18です。米国海軍としては、最新のF-35をPRしたいところでしょうが、まだ機密事項が多いのかもしれません。ストーリー上では、ミッションの性格からF-18が選択されたということになっています。ただ、意外な形でF-14も再登場し、オールド・ファンをくすぐっています。
ハリウッドは、この手の、笑い、涙、チームワーク、そして大成功といった流れの映画が大得意です。典型的には、実話に基づくサクセス・ストーリー系などです。実に手慣れたもので、その手際の良さは伝統とも言えます。ところが、今回は、そのハリウッド伝統のベタな演出が抑え気味になっています。スッキリとした脚本で、テンポ良く、キレのいい映像をつないでいます。恐らく、ゲームの時代を意識したのでしょう。ゲームを超えるテンポと映像を目指したことが、今回の成功につながっていると思います。今どきのアクション映画にとって、ゲームで育った観客にアピールできるかどうかが、重要なポイントなのでしょう。
そのような観点から、監督も選んだのでしょう。ハリウッドの職人系監督ではなく、SFに手腕を見せるジョセフ・コシンスキーが選ばれています。トム・クルーズとは、「オブリビオン」(2013)で一緒に仕事をしています。コシンスキーは、風変わりな立ち位置の監督です。スタンフォード大学の工学部出身で、現在も非常勤講師をしているとのこと。映像の世界にも、テクニカルな面から入ってきたようです。「オブリビオン」では、監督だけでなく、製作・脚本も担当し、その映像は、デザインや建築を学んだ人らしいエッジの効いたものでした。2017年には、実話に基づく山火事消火部隊を描いた「オンリー・ザ・ブレイブ」を監督し、確かな腕前を見せていました。
トム・クルーズは、今年、60歳になるようですが、その若々しさには驚きます。ミッション・インポシブル・シリーズで知られるとおり、可能な限りスタントマンを使わないという主義にも驚かされます。自動車とバイクの腕前も有名です。前作同様、今回も自らバイクで疾走するシーンが使われています。今回は、カワサキのNinjaに乗っていました。自ら製作サイドもこなすトム・クルーズは、ハリウッドで独特な立ち位置を確立した大スターだと思います。気になるのは、サイエントロジー教会です。現在は、協会のNo.2だと言われます。カルトとも、営利団体とも言われますが、何かと批判の多い団体です。トム・クルーズは、学習障害をサイエントロジーで克服したと言われています。ちなみに、サイエントロジーの誕生を描いたと言われるポール・トーマス・アンダーソン監督の「ザ・マスター」(2012)は、なかなかの傑作でした。(写真出典:movies.yahoo.co.jp)