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米軍の最新戦術核 |
さすがに、緊張緩和、いわゆるデタントの時代以降、核開発を抑制する条約等も締結されてきました。ただし、そこで規制されたのは、広島・長崎級の数百倍、数千倍という威力を持つ戦略核でした。開発競争は、規制対象ではない戦術核、つまり広島・長崎級の数分の一以下という小型核兵器へと進みました。戦術核は、コントロール技術の進化もあって、影響を極めて限定的に抑えた攻撃が可能となります。同時に、それは、核抑止の背景にある滅亡シナリオという考え方を薄めることにもなりました。戦術核は、我々の体に染みこんでいる「核兵器は使わない武器」という常識の外にあります。戦術核は、抑止ではなく、脅しを目的とした使用が想定されています。
例えば空軍基地などにピンポイントで戦術核を使用することで、甚大な被害とともに恐怖を与えることが可能になります。もちろん、ここでも報復攻撃が想定されます。ただ、報復する側は、核の応酬がエスカレートして破滅シナリオに至ることを恐れ、撤退や停戦交渉を選択する可能性が高くなります。つまり、戦術核は、先に使った側に有利に働くわけです。近年のロシア軍の演習は、最後に戦術核を使用する傾向にあり、「escalate to de-escalate」、つまりエスカレートを緩和するためにエスカレートさせるという考え方に基づているという記事を読みました。プーチンは、ウクライナ侵攻に際して、核攻撃を暗示し、かつ原発を攻撃するなどしています。NATOによる軍事介入を牽制するために、行っているのでしょう。
プーチンの言動に対して、私たちは従来どおりの戦略核をイメージし、覚悟の強さを示しているだけで実際に使うことはないと確信していました。ところが、それは間違っているようです。プーチンの言う核兵器とは、使えない戦略核ではなく、使うための戦術核だと考えるべきです。ロシアが戦術核を使っても、NATOの報復は極めて難しいと思われます。軍略上は、ロシア有利となります。ただし、他国へ核攻撃を行ったロシアを国際社会が許すことはなく、時間のかかる経済制裁から、軍事オプションも含む強行策へと進みます。中国ですら、ロシアを支援することは難しくなります。戦術核の使用は、プーチンにとって両刃の剣です。しかし、遅々として進まない侵攻に業を煮やしたプーチンが、戦術核を使うリスクは十分にあります。
戦術核の使用で、プーチンが最も恐れるのは、ロシア国内の反発だと思われます。革命で権力を奪取した政権が最も恐れるのは革命です。ロシアは、すでにソヴィエトではありません。しかし、独裁体制ならばソヴィエトと変わらぬプーチン政権も、同様に民衆の反発を恐れるはずです。情報統制は、独裁政権の常道です。しかし、ネットの時代に、それは限界があることを独裁者は知るべきです。ロシア国民には、今こそ、反プーチン運動を「escalate to de-escalate」してもらいたいと思います。(写真出典:milirepo.sabatech.jp)