2021年10月5日火曜日

ドーナツ

ゼッポレ
NYのリトル・イタリーは、30年前ですら、 縮小気味で、隣接するチャイナ・タウンに取り込まれつつありました。それでも「グロッタ・アズーロ」といった人気レストランもあり、奥のテーブルにマフィアっぽいおじさん達がたむろしている店もありました。さびれたリトル・イタリーが、年に一度、異常に盛り上がるのが、サン・ジェナーロの祭りです。売り物を連呼する露店がずらりと並び、狭い道は人でごった返し、その中を素朴な楽隊を従えたサン・ジェナーロの像が練り歩きます。まるで、イタリアの田舎町のお祭りに迷い込んだかのようでした。私も、毎年、楽しみにしていましたが、お目当ては、なんといっても生ソーセージのサルシッチャのBBQ、そしてイタリアのドーナツ「ゼッポレ」でした。

ドーナツに類した揚げ菓子は、世界中に存在するようです。どこでも、お祭りの際に食べる、いわゆるフェスティバル・フードだったようです。油も砂糖も貴重なものだったでしょうから、理解できる話です。食べたことのあるドーナツ類のなかで、私が一番好きなのはゼッポレです。イタリア系の人に聞いた簡単な作り方は、スーパーで売っているピザの生地を揚げ、粉砂糖をかけるというものです。これで十分に楽しめます。日本でも一般的なアメリカ式ドーナツは、母親が揚げたドーナツで馴染んでいたにも関わらず、あまり好みではありません。アメリカ人は、ドーナツが大好きです。日本のお握りに相当するような気がします。NYでは、朝食にドーナツを食べる人が大半を占めます。朝のミーティングでは、会議室にドーナツとコーヒーが置いてあるのが定番でした。ただ、私は、一度も手を出したことはありません。

ドーナツの起源は、オランダのオリボーレンだと言われますが、揚げ菓子自体は、古くから世界中にあったと思われます。オリボーレンは、ピューリタンが持ち込んだアメリカ式ドーナツの起源ということなのだと思います。オリボーレンは、丸く揚げて、上にクルミを乗せていたことから、ドー(生地)ナッツ(木の実)となったようです。アメリカ式ドーナツを特徴づけるは、なんと言ってもリング状のドーナツです。公式的には、19世紀半ば、船乗りのハンソン・グレゴリーという人が、火の通りを良くするために穴をあけたとされています。アメリカで、ドーナツが普及したのは、第一次大戦の際だったとされます。慈善団体などが、兵士への慰問の一環としてドーナツを無料配布したことがきっかけだったそうです。その後、ドーナツ・ショップが全米でフランチャイズ展開し、種類も様々増えて、アメリカのドーナツ文化ができあがります。

ドーナツと言えば、アメリカの警察官の大好物というイメージがあります。映画やTVのなかで、警察署には、いつもドーナツが置いてあり、勤務中にも街で頬張り、差し入れの定番もドーナツといった具合です。そのせいか、アメリカの警察官は、太った人が多いように思います。映画のなかの警察署のドーナツと言えば、クリスピー・クリームのドーナツが多いように思います。ただ、警察官とドーナツというイメージを作ったのは、世界最大のドーナツ・チェーンであるダンキン・ドーナツでした。店に立ち寄った警察官には無料でドーナツを提供するというキャンペーンを行ったことから、イメージが定着したのだそうです。なかなかうまい手です。警察官が、よく来る店となれば、セキュリティ上は極めて安心。ドーナツで警備会社を雇ったようなものです。

世界のドーナツ類と言えば、ゼッポレの他にも、フランスのベニエ、ドイツのクラップフェン、スペイン発祥のチュロス、ポルトガル発祥ながらハワイで有名なマラサダ等々が、よく知られています。お菓子好きのアラブにも揚げ菓子は多数あります。そして、沖縄のサーダーアンダギーも、忘れてはいけません。起源ははっきりしませんが、中国の開口笑というお菓子が琉球に伝わったものだとされます。縁起ものとされ、祝いの席にも出されるようです。日持ちすることから、沖縄土産の定番でもあります。ただ、やはり揚げ物系は、揚げたてが一番美味しいに決まっています。恩納村へ行った際などには、三矢本舗のサーダーアンダギーは避けて通れません。(写真出典:tiraccontounaricetta.it)

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